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2019年09月15日

グラムシはお好きですか

グラムシはお好きですか

 2004年に放送された韓国ドラマ「バリでの出来事」

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 このドラマの主人公は、財閥の御曹司ジェミン、別の財閥の娘ヨンジュ、母と2人の貧しい家で育ったカン・イヌク、孤児院で育ったイ・スジョン。持てる者の「壁」を乗り越えられないイヌクは、財閥の御曹司ジェミンと親しくなった貧しい女スジョンを見守る。自分がそうであったように、彼女がズタズタにされるかもしれないと。恋愛劇の伏線にある階級対立。

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 第7話。「グラムシって知ってますか?」イヌクが唐突に投げかけた質問に、スジョンは「はい?」と反問する。驚いて目を丸くしたスジョン。わけがわからない。イヌクの意味深長な言葉が続く。「階級は中世にだけあったわけじゃないんです。ヘゲモニーって奴が僕らの目と耳を塞いでしまっているだけ。もちろん、そのイデオロギーの中で幸せだと感じているなら、それはそれでいいんだけど…」

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 スジョンは夕方になってから、また質問する。「今日一日中気になってたんですけど、グラムシって何です?」イヌクはニッコリと笑いながら、一冊の本を差し出した。「寝る前に少しずつ読んだら、よく眠れると思いますよ」

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 放送終了後、多くの掲示板で「グラムシって何ですか?」という質問が殺到した。カン・イヌクの愛読書が「グラムシの獄中ノート」と「グラムシのヘゲモニー論」。バリへ逃亡する時にも大事に持って行く。ドラマ終了後、本屋さんに注文が殺到した。

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 若い頃に傾倒したグラムシが韓国ドラマの中にさりげなく登場する。いったいこの国はどうなっているのだ。
 イタリアの思想家グラムシ(1891~1937)。1926年11月、ファシスト政権によって逮捕され南イタリアの監獄に投獄。1937年に死亡するまでの10年間、3000ページ余りにわたる「獄中ノート」を執筆した。
 レーニンが指導したロシア革命は、軍隊・行政機関・警察・裁判所などの国家機関を暴力的に奪取した。ロシアでは権力の大部分は国家のもとに集中し「市民社会」は萌芽状態だった。
 一方、西欧では「市民社会」が発達し自立している。権力奪取以前に市民社会における合意形成が必要だとグラムシは考えた。合意形成への指導力を「ヘゲモニー」と言う。政権交代だけで社会変革できるほど国家は脆弱ではない。市民社会の中に社会運動相互の「自立と連帯」という有機的な関係が構築されなければならない。グラムシはこれを「陣地戦」と呼んだ。
 合意形成のためには支配的なイデオロギーに対し、知的にも道徳的にも優位にたつ必要がある。「知的・道徳的ヘゲモニー」という用語だ。新しい文化・芸術・科学技術・暮らし方・生き方を地域の中に根付かせ、それらをネットワークするソーシャル・デザイナーが必要だ。それを「有機的知識人」と呼んだ。人間の自由で自立的な連帯社会の構想。それがグラムシの教えてくれたものだ。

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 ソウル市の教育長はなんとグラムシの研究者だった人物。Googleで韓国・グラムシと検索したら、おどろおどろしい極右の記事ばかり出てきて驚いた。彼らは韓国民主化運動をグラムシ理論に基づく共産主義革命だと非難する。彼らにとってその思想がいかに脅威なのかが逆によくわかる。陣地戦、知的道徳的ヘゲモニー。民主主義を求める市民たちにとって、「グラムシ」は大きな支柱なんだと反面教師たちに教えられた。