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2023年09月15日

処理水という名の汚染水


 自らの責任で生じた汚染水を海へ捨ててしまう。いくら何でもやってはいけないことだ。でも、そんな批判をしようものなら、中国の肩を持つつもりか、風評被害を煽って地元の人たちを傷つけるのかと、訳のわからん言葉が浴びせられる。
 少なくとも、以下のことだけは確認しておいた方がよさそうだ。
 
 海洋放出される処理水にはトリチウム以外は含まれていないので安全だ。また、トリチウムは海外の原発や国内の原発からも海洋放出しているので安全だ。
 間違いの第一。流れてくる水は通常運転の原発からのものとは全く違うということだ。福島第1原発の敷地内のタンクに溜まり続けているのは、全電源を喪失し溶け落ちた核燃料を冷却し続けている汚染水だ。また、流入した地下水が核燃料デブリに触れて汚染水となっている。
 通常の原発では、燃料棒は被膜管に覆われており、冷却水が直接核燃料に触れることはない。だが、福島第1原発では、溶け落ちて固まったむき出しの核燃料デブリに直接触れることで放射能汚染水が発生している。その汚染度は通常の原発排水どころではない。2018年にはALPSで処理したにもかかわらずセシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素131などトリチウム以外の放射性核種が検出限界値をこえて発見されている。
 これは汚染水以外の何物でもなく、処理水と呼ぶのはれっきとした詐欺行為である。


 間違いの第二。トリチウムは本当に何の害もない安全なものなのか。
 「トリチウムは自然界にも存在し、全国の原発で40年以上排出されているが健康への影響は確認されていない」という。だが実際に、世界各地の原発や核処理施設の周辺地域では、事故が起きなくても稼働させるだけで周辺住民や子どもたちを中心に健康被害が報告されている。その原因の一つとしてトリチウムもあげられている。
 トリチウムは水素の同位体で、三重水素とも呼ばれ、化学的性質は普通の水素と同一だが、β線を放出する放射性物質だ。人の体重の約61%は水が占めている。トリチウムは水とほとんど変わらない分子構造をしているため、人体はトリチウムを水と区別できず容易に体内の組織にとり込みやすい。トリチウムを体内にとり込むと、体内では主要な化合物であるタンパク質、糖、脂肪などの有機物にも結合し、有機結合型トリチウムとなり、トリチウム水とは異なる影響を人体に与える。
 トリチウムが染色体異常を起こすことや、母乳を通じて子どもに残留することが動物実験で報告されている。動物実験では、トリチウムの被曝にあった動物の子孫の卵巣に腫瘍が発生する確率が5倍増加し、精巣萎縮や卵巣の縮みなどの生殖器の異常が観察されている。
 実はこの内部被曝の問題は、原子力推進側にとって積年のタブーであった。内部被曝による人体への影響はアメリカのマンハッタン計画以来、軍事機密とされ隠ぺいされ続けてきたのである。


 政府の有識者会議は、トリチウムの生体への影響としてマウスやラットで発がん性や催奇形性が確認されたデータの存在を認めながら、ヒトに対する疫学的データが存在しないことを理由に、トリチウムが人体に影響を及ぼすことを裏付けるエビデンスはないと主張している。都合の悪い時はいつもこの理屈を使う。
 しかし実際にはトリチウムの人体への影響はこれまでもくり返し指摘されてきた。ドイツでは1992年と98年の二度、原発周辺のがんと白血病の増加を調査した。その結果原発周辺5㎞以内の5歳以下の子どもに明らかに影響があり、白血病の相対危険度が5㎞以遠に比べて2・19、ほかの固形がん発病の相対危険度は1・61と報告された。
 カナダでは、重水炉というトリチウムを多く出すタイプの原子炉が稼働後、しばらくして住民のあいだで健康被害の増加が問題にされた。調査の結果、原発周辺都市では小児白血病や新生児死亡率が増加し、ダウン症候群が80%も増加した。またイギリスのセラフィールド再処理工場周辺地域の子どもたちの小児白血病増加に関して、サダンプト大学の教授は原因核種としてトリチウムとプルトニウムの関与を報告している。
 日本国内でもトリチウム放出量が多い加圧水型原発周辺で、白血病やがんでの死亡率が高いとの調査結果も出ている。
 トリチウムは通常の原発からも海洋放出しているから安全と言っているが、実際に被害報告や危険性が指摘されている以上、人体にとって危険なトリチウムを排出する通常の原発稼働も止めるべきなのである。通常の原発から出ているのだから安全だなどと間抜けな言葉に騙される方も騙される方だ。
 トリチウムは宇宙線と大気の反応により自然界にもごく微量で存在し、雨水やその他の天然水の中にも入っていた。しかし、それが急増したのは戦後の核実験や原発稼働によってだ。さらにそれに輪をかけて、桁違いのトリチウムを無制限に放出し続けて、安全ですなどと涼しい顔をしていられる神経がわからない。


 「処理水の取り扱いに関する小委員会」では処分方法として最終的に5つの方法を提示した。その処分方法別の費用は34億~3976億円の幅があったが、結局もっとも安い費用で済む海洋放出(費用34億円)に決定した。科学的な安全性より「安さ」を選択したのだ。そして、全世界に対し償うことのできない無責任と傲慢な大犯罪を演じている。
 異常なことを異常なことと気づかない位この世の中は異常なのか。無知ほど怖いものはない。最後の一瞬まであきらめるな!騙されるな!自分の頭で考え続けよ!
  


Posted by biwap at 21:11辛口政治批評

2023年09月14日

孤立無援から


 人と人が殺しあっていたら、すぐに止めるのが当たり前じゃないか。不思議なことに人殺しを止めようとしない「正義の味方」の顔を見たら、昨日の同志だったりして愕然とする。


 和田春樹著『ウクライナ戦争即時停戦論』の書評を抜粋引用する。 
 著者はロシア史・現代朝鮮史の研究者。ベトナム戦争以来、反戦平和・国際連帯の市民運動にとりくんできた。ウクライナ戦争をめぐっては、ロシアのウクライナ侵攻直後からいち早く「即時停戦」を訴え、「憂慮する歴史家たちの声明」。「日韓市民共同声明」。G7広島サミットに向けた「今こそ停戦を!」まで、学者仲間とともに連続的なキャンペーンを展開してきた。


 本書は、ウクライナをめぐって揺れ動く情勢の変化と、運動への賛否あわせた反響を丹念にとりあげ、ウクライナ戦争の内実に迫り、停戦の具体的な方策を提起するものとなっている。
 戦争には反対しなければならず、もし戦争になれば、即時停戦を働きかけなければならない。
 みずから空襲のなかを逃げまどった体験を持つ著者は、国民の多くが共有しあうそのような信念で活動してきた。ところが、ウクライナ戦争ではそのようなあたりまえの考えが以前のようには通用しなくなったことを痛感したという。
 マスコミはロシアを非難し、「ウクライナ支援」といって戦争を煽る報道をくり返す。そればかりか、「共産党」など「平和運動勢力」の一部やロシア研究者の間からも「侵略者ロシア」「専制主義者プーチン」を非難し撤退させることが第一で、そのためにウクライナの戦いを前進させることなくして停戦はありえないと主張するありさまであった。
 ウクライナの多くの民間人が砲弾に倒れ、強制動員されたウクライナとロシアの若者が殺し合うような戦闘をただちに止めるよう求めることが、正義に反するというのだ。それは今も続いている。
 徹底的に相手をたたきつぶすまで戦うのか、それとも戦闘を即時中止し交渉に入るのか。著者はそれ以外に選択肢はないと強調する。
 和平と停戦は別の問題であり、とくに二国間の戦争においては停戦することなく、正義や戦争犯罪、領土問題などを第三国を含めて解決する道筋を開くことはできないという。
 本書では特別に一章をもうけて、朝鮮戦争において複雑を極めた停戦過程を詳細に分析し、それとの比較でウクライナでの停戦の方策を提起している。
 著者はロシア研究の専門家としてプーチンの思想、信条、主張をロシア史の流れのなかで分析的にとりあげ、「プーチン=ヒトラーの再来」という見方を否定する。
 ロシアとウクライナは350年間一つの国であった。2014年のマイダン革命を前後したウクライナ東部での紛争、それに続く今日の事態は、「ソ連解体から生じたウクライナの独立に関連する対立の産物」なのだ。ウクライナ、ロシアの国民大衆の厭戦気分には兄弟同士のたたかいへの痛みがともなっている。
 なによりもウクライナとロシアは昨年、早くも開戦から5日目には停戦交渉を始めていたのだった。どちらの側も停戦を望んでいたが、「ブチャの虐殺」報道をきっかけに吹っ飛んでしまったかのように見える。著者は、そこではバイデン米大統領がポーランドでロシアに対する戦闘宣言ともいえる「ワルシャワ演説」をおこなったことが大きいと見ている。
 バイデンはウクライナ戦争を「専制主義」に対する「民主主義」の戦いと見なし、アメリカ主導の戦争(=代理戦争)として操作することを隠してはいない。さらに、この紛争は長引き、「少なくとも数年間は続く」と公言してはばからない。そして、「最終的には外交的に終わらせる」とのべている。
 著者は、そこにウクライナ戦争がアメリカにとって「新しい夢の戦争」であること、同時にその限界も明確に示されているという。米軍はこの戦争に直接参戦せず、戦死者も出さない。ロシアと戦って死ぬのはウクライナ人であるから、ロシアとの直接的な戦争にならない限り長く戦争を続けることができる。そのもとで、アメリカ製の武器を大量にウクライナに送り戦場で消費するので、兵器産業は莫大な儲けにあずかり喜んでいる。
 アメリカにとって、この戦争の目的はウクライナの軍事的勝利ではなく、ロシアの力を可能な限り弱めることにある。だからロシアとの直接的な軍事衝突の危険性が高まれば、ただちにウクライナ支援を止めて「外交的に終わらせる」というのだ。こうしたアメリカの新しい戦争のやり方は、アジアにおいて「台湾有事」を叫び、中国との緊張を高めて日本を武力衝突の最前線に立たせ戦場にしようとする動きにも貫かれているといってよい。


 岸田政府はウクライナ戦争を口実に「防衛政策の抜本的転換」を進めるが、本書はその愚かさにも踏み込んでいる。アジアにおいて日本がウクライナのような悲惨にいたらないようにするというのなら、中国や北朝鮮、ロシアとの緊張と軍事的対抗に走るのではなく、対話によるアジアの平和を追求する以外に道はないのだ。
 著者は「憲法九条擁護」をとなえて、「専制主義対民主主義」を旗印にしたアメリカの戦争に組み込まれていく潮流との違いを鮮明にしている。
 当初は孤立無援状態から始まった著者らの即時停戦の運動だが、その創意的な行動を通して市民の共感と支持を大きく広げてきた。そして、欧米を中心に「今こそ停戦を!」の声を上げる世界の知識人、文化人との連携をも強めてきた。本書全体に、「平和」を口で叫ぶだけでなく現実を変える実践を通してつかんだ運動への確信がみなぎっている。

  


Posted by biwap at 17:22辛口政治批評

2023年04月15日

殺すな!


 権威に寄りかかり、自分の頭で考えないのはリベラル派も同じだ。ここで停戦すればロシアの侵略を追認することになるという。制裁し糾弾すればロシアは撤退するのか? 撤退するまで正義(?)の戦争を続けろと言うのか?
 4月5日、国際政治や紛争問題の専門家を中心とした有志が、G7首脳に向けてウクライナ戦争の停戦とアジアで戦争の火種を広げないことを求める声明を発表した。彼らは昨年から異端を引き受けてきた。でも、ここに来て少しずつ変化が起こりつつある。誰が何を言ってきたのか、何を言っているのか、忘れずにしっかりと心に刻んでおこう。昔の「べ平連(ベトナムに平和を市民連合)」のコピーをもう一度。「殺すな!」
 会見の中から、羽場久美子氏のメディア批判をみてみたい。


 私たちは、ロシアとウクライナの戦争が始まった当初から、即時停戦と話し合いによる問題解決を訴えてきた。ここでは3点について話したい。
 一つ目は、停戦とは、どちらかの敗北であったり、勝利ではないということだ。戦争の停止である。人の命を救うことであり、平和な世界秩序を構築することだ。
 二つ目は、主にメディアの方々に訴える。戦争時においては報道の公平さが極めて欠如する。まさに今、日本の報道が戦争前のようになっていることをたいへん憂う。多様なファクツ(事実)にもとづく多様な報道は、戦争時にこそ必要であり、それが私たちが正しく判断するうえでの拠り所になる。一方だけの情報は、戦争賛美に奉仕することになる。メディアの責任は、われわれ研究者の自由な発言とともに極めて重要だ。
 三つ目は、現在、世界の3分の2が停戦を要求し、殺戮の停止を要求しているという事実だ。そして今後の世界の潮流はどこにあるのか? 21世紀後半の世界を牽引していくのは誰なのか? それはアメリカなのか? ということを、事実をもとに考えたい。


  ミサイルを撃ち込んで応戦するウクライナ軍

 連日、いかにロシアの悪事によってウクライナの人々が苦しんでいるかということが新聞やTVで強調され、その論調がSNSにも溢れている。それに対して少しでも反論をすると、「ウクライナの人々を蹂躙し、ロシアの勝利を助けている」「恥を知れ」といったような荒唐無稽なバッシングを受ける。公的メディアのNHK、あらゆる民放でも客観的で公正な報道は影を潜め、戦争継続を支持する方々が、明らかに間違った発言であるにもかかわらず前面に出てきている。
 すでに国民の多くは、この事態のおかしさに気付いている。だからこそ、私たちは昨年だけでも50回以上もいろいろな場所で講演に呼ばれ、聴衆からは「メディアでわからないことが事実をもってわかった」と驚かれる。
 戦争継続により、1年間でロシア兵が20万人死亡(イギリス軍部発表)、ウクライナ側で8000人が死亡(ウクライナ政府発表)したといわれる。この情報を信じるなら、ロシア側の犠牲も甚大であり、歴然とした力の差を感じる。だが、それはウクライナの果敢な戦いによるものではない。西側とりわけ米国からの大量の武器の流入によるものであり、それによってロシア兵だけでなく東部のロシア系ウクライナ人が大量に殺されているという事実がある。これによってアメリカの軍事産業は空前の利益を得ている関係だ。
 東部には3割近くロシア語話者がいる。2014年のマイダン革命で、ウクライナではロシア語の使用が禁止された。これは国連からも、EUからも国際法違反として批判されてきたことだ。だが現下のメディア報道では、そのような事実に触れることなく、いかにロシアが一方的にウクライナを蹂躙し、いかにロシアによって一般の民家が破壊されているかという情報だけが流される。東部での戦闘による住民への被害は、戦争である以上、ロシアだけでなく双方の戦闘行為によるものであることは明らかであるにもかかわらず、その視点はみられない。これは「戦時報道」であり、ロシアのみを非難することで、国際社会がやるべき作業を覆い隠している。メディアは多様な事実の報道に撤し、それに対する攻撃や筋違いな批判については果敢にたたかってもらいたい。
 かつてのように言論や情報を統制し、一部の戦争遂行者のみを利するような戦争を東アジアで起こしてはならない。そのためには、ロシアの声も、中国の声も、ASEANの声も訴え続けるという役割を果たしてもらいたい。


  ウクライナへの兵器供与に反対するドイツ市民のデモ

 報道では知らされることがないが、すでに世界の3分の2が停戦を望んでいる。すなわちアジア・アフリカ、中南米などグローバル・サウスの国々だ。私たちは、戦争の継続ではなく、平和を望む人々と結ばなければならない。
  


Posted by biwap at 23:48辛口政治批評

2023年03月30日

しゃもじの「痴性」



 おみやげの「必勝しゃもじ」。これを巡って賛否両論だという。しかし絶望的なのは、賛否両論者共に適切かどうかではなく何が問題かを認識していないことだ。故ゴルバチョフ氏の言う通り、「人間の命より大切なものはないし、またあってはならない」のだ。戦場でどんな殺戮が繰り返されているかを少し想像しただけでも、「頑張ってください」の言葉が出る訳がない。
 政治学者・大崎巌氏の論稿「ロシアより先に戦争を始めたのは米国とウクライナの可能性 『ロシアの正義』を全否定せず、日本は停戦協議の場を用意せよ」(2022.11.23)を紹介したい。
 声の大きい方が正しいのではない。それに到達するのは、結局は人間の「知性」によるしかないのだと思う。ネトウヨ的なものの対極にある「知性」は、苦痛を伴う思考と忍耐を伴う冷静さが求められる。よろしければ、長い論稿を読んでいただきたい。

 ウクライナ危機は地球の存続を左右する大惨事であるにもかかわらず、日本を含む西側諸国は停戦の努力を放棄し、戦争の一方の当事者であるウクライナを絶対正義とみなして全面支援し、徹底的にロシアを敗北させようとしている。
 この戦争は、ロシア・ベラルーシ対ウクライナ・NATO(北大西洋条約機構)の軍事紛争であり、ロシア対西側連合の経済・イデオロギー戦争だ。
 岸田文雄政権はウクライナに攻撃兵器となるドローンを供与し、ヒステリックな対ロ制裁を実施し、ロシアの世界観を全否定している。
 米国の正義を狂信するジョー・バイデン政権が極東でも事態をエスカレートさせれば、既に戦争の当事国となった日本は第3次世界大戦の戦場となる可能性がある。
 一刻も早く停戦を実現させるために私たちができることは何か。
 市民一人ひとりがロシア側の主張についても冷静かつ客観的に議論を深め、無責任な日本政府に戦争当事者であることをやめさせ、中立国として停戦協議の場を提供させることだ。
 私は一人の人間として、あらゆる戦争に反対だ。ロシアでは部分動員が完了し、極東連邦大学(ウラジオストク)の教え子や元同僚が前線に派遣される可能性が高まっている。
 「祖国を守るため」と戦う者もいれば、反戦の意志を貫く者もいるだろう。立場がどうであれ、彼らには何があっても生き残ってほしい。これ以上、ウクライナ人、ロシア人、外国人義勇兵の尊い命が奪われないよう、祈るしかない。
 ただ、一政治学者として、中立・客観的な立場から、この戦争の本質を冷徹に分析する義務がある。
 この間、日米欧の政治家・メディア・専門家の多くが「西側のリベラルな理想」と「国際社会の現実」を混同して議論していることに強い危機感を覚える。
 彼らは集団催眠状態に陥ったかのように、「ウラジーミル・プーチン大統領は領土拡大のために一方的な侵略戦争を始め、無実のウクライナ人は祖国を守るために戦っているだけだ」というマントラを唱え続けている。
 だが、これは「プーチンの戦争」ではない。
 ロシア国民の大多数は「祖国防衛とロシア人解放のための軍事作戦」だと考えている。なぜか?
 日本では「ウクライナと西側の正義」は語り尽くされてきたので、「ロシアの正義」についても真剣に議論する必要があるだろう。
 誰がどうやってこの戦争を始めたのかを正確に理解することは重要だ。
 なぜなら、西側の主要メディアの多くは、「2・24に大義もなく突然ウクライナを侵攻したロシアは処罰すべき悪い国だ」という確信に基づいて戦争報道を続けており、その大前提が崩れた時、彼らの報道の客観性が大いに疑われることになるからだ。
 実は、ロシアが「特別軍事作戦」を開始する前から戦争は既に始まっていたという議論がある。
 例えば、国連平和維持活動の政策責任者を務め、NATOではウクライナ支援プログラムにも参加したジャック・ボー(Jacques Baud)氏は、今年2月16日にウクライナが戦争を始めたと主張している。
 以下、ボー氏がフランス情報研究センター『文献速報』第27号に寄稿した論文「ウクライナの軍事情勢」の内容を整理した上で、「2・16開戦説」について検証したい。
 ボー氏はまず、ミンスク合意に至る過程について次のように指摘している。
・この紛争の根源は、2014年2月にヤヌコヴィッチ政権を転覆させた直後、新政府がロシア語を公用語から外し、ウクライナ東・南部のロシア語話者地域に対して激しい弾圧を実行し、オデッサやマリウポリなど各地で虐殺事件が発生したことにある。
・2014年5月に東部のドンバス地域で自称ドネツク・ルガンスク両共和国が行った住民投票は、プーチン大統領の助言に反して行われた。
「親露派」という言い方はロシアが紛争の当事者だったことを示唆するが、それは事実ではなく、「ロシア語話者」と言った方が適切だろう。
・2014年、NATOで小型武器の拡散との戦いを担当していた時、ロシアから反政府勢力に兵器や軍装備品が渡されたことはなかった。
 ロシア語を話すウクライナ軍部隊が味方につき、反政府勢力の武装化が進んだ。ドンバスに対する大規模な反テロ作戦を開始したウクライナ政府がデバルツェボで完敗を喫し、2015年2月に「ミンスク2」協定が結ばれた。
・東部紛争をめぐる停戦協定である「ミンスク合意」は、ドネツク・ルガンスク両共和国の分離や独立ではなく、ウクライナ国内での自治を規定していた。

 両共和国の地位は政府と両共和国の代表との間で交渉されると書かれており、ウクライナの国内問題なので、2014年以降、ロシアは交渉の当事者になることを拒否し、合意の履行を求め続けていた。
 2022年2月23~24日より前にOSCE(欧州安全保障協力機構)の監視員がドンバスで活動するロシア軍部隊の痕跡を観測したことは一度もなかった。
 ボー氏は、ウクライナ政府が弱体化した軍の兵力不足を補うために準軍事組織の民兵に頼り、基本的に外国人傭兵から成る民兵の多くは極右過激派だと指摘する。
 ウクライナの軍事力をまとめたロイター通信によると、2020年、全兵力31万1000人の内、民兵は10万2000人。
 彼はウクライナの民兵の特徴について、次の点を明らかにしている。
・19カ国から集まった民兵は、米英仏・カナダによって武装化され、資金提供を受け、訓練された。西側は、2014年から民間人に対するレイプ・拷問・虐殺などの数多くの犯罪を犯してきた彼らに武器を与え続けた。
・西側諸国によって支えられた極右民兵は、2014年からドンバスで活動し続けた。彼らは暴力的で吐き気を催させるイデオロギーを伝え、猛烈な反ユダヤ主義者だ。

 アゾフ連隊などの狂信的で残忍な過激派民兵は、ユーロマイダン革命を活気づけた極右集団から創設された。ロシアだけでなく、ユダヤ人団体、西側メディア、米陸軍士官学校の反テロセンターなどもウクライナの民兵を「ナチ」や「ネオナチ」と特徴付けている。
 その上で、今年2月24日にロシアが軍事介入するまでのドンバスの状況について、次のように分析している。
・2021年3月24日、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はクリミア奪還命令を出し、南部に軍を配備し始めた。
 同時に黒海とバルト海の間でNATOの軍事演習が何度か行われ、ロシア国境沿いの偵察飛行が大幅に増加した。
 その後、ロシアは軍事演習を実施した。同年10月、ウクライナはミンスク合意に違反し、ドンバスでドローン攻撃を行った。
・2022年2月11日、独仏露ウの補佐官級会合は具体的な成果が出ずに終わり、明らかに米国からの圧力の下で、ウクライナはミンスク合意の適用を拒否した。
 プーチン大統領は、西側は空約束をするだけで合意を遵守させるつもりはないと言及した。ドンバスの両軍接触地帯での政府側の軍事的準備が進み、15日、ロシア議会は両共和国の独立を承認するようプーチン氏に求めたが、彼は承認を拒絶した。
・2月16日以降、OSCE監視団の日報が示す通り、ドンバスの住民に対する砲撃が激増した。当然のことながら、西側のメディアと政府、EU、NATOは何も反応せず、介入しなかった。
 EUや一部の国々は、ドンバス住民の虐殺がロシアの介入を引き起こすことを知りながら、虐殺について故意に沈黙を保ったようだ。
・早ければ2月16日にバイデン大統領は、ウクライナ軍がドンバスの民間人を砲撃し始めたことを知っていた。
 プーチン大統領は、ドンバスを軍事的に助けて国際問題を引き起こすか、ロシア語話者の住民が粉砕されるのを傍観するか、難しい選択を迫られた。
・プーチン氏は、介入すれば、「保護する責任」(R2P)の国際義務を呼び起こせること、介入の性質や規模にかかわらず制裁の嵐を引き起こすことを知っていた。
 ロシアの介入がドンバスに限定されようが、ウクライナの地位について西側に圧力をかけるためにさらに突き進もうが、支払う代償は同じだろう。
 2月21日、彼は演説でこのことを説明し、下院の要請に応じて2共和国の独立を承認し、彼らとの友好・援助条約に署名した。
・ドンバスの住民に対するウクライナ軍の砲撃は続き、2月23日、両共和国はロシアに軍事援助を求めた。24日、プーチン氏は、防衛同盟の枠組みの中での相互軍事援助を規定する国連憲章第51条を発動した。
・国民の目から見てロシアの介入を完全に違法なものとするために、西側諸国は戦争が実際には2月16日に始まったという事実を意図的に隠した。

 一部のロシアと欧州の情報機関が十分認識していたように、ウクライナ軍は早ければ21年にドンバスを攻撃する準備をしていた。
 米英の情報機関で訓練を受け、スイス戦略情報局員だったジャック・ボー氏は、主に西側の公開情報や国連・OSCE(欧州安全保障協力機構)の客観的なデータを提示しながらこの戦争を緻密に分析している。
 ロシアの介入が始まる前の軍事情勢も踏まえつつ、中立機関のデータなどを基に2・16開戦説を検証してみよう。
 「今年2月16日からウクライナ軍がドンバスの住民を集中砲撃し始めた」とボー氏が主張する根拠となっているのは、OSCEが作成した「ウクライナ特別監視団の日報・現地報告」だ。
 日報では、ドネツク・ルガンスク地域における停戦違反と砲撃の回数・場所が報告されている。
 実際にデータを確認してみたが、1日平均の停戦違反・砲撃数は、昨年は257回・約70発、今年は2月14日までは200回余り・約50発だった。
 2月15日は153回・76発だったが、16日になると591回・316発と急増している。
 その後は17日に870回・654発、18日に1566回・1413発、19~20日は3231回・2026発だった。プーチン大統領がドンバスの2共和国の独立を承認した21日には1927回・1481発、22日は1710回・1420発だった。
 また、日報の停戦違反・砲撃地が示された地図を見ると、16日からドネツク・ルガンスクにおける政府管理地域と両人民共和国の境界線上で激しい戦闘が始まったことが分かる。
 17日以降の地図からは、ロシアが介入するまで、ウクライナ軍が日を追うごとに両共和国内に攻め込んで激しく砲撃している状況が読み取れる。
 1日の砲撃数が300発を超えた16日からドンバスでは戦争状態になったというボー氏の主張には説得力がある。
 だが、OSCEの日報だけでは、戦争を始めたのがウクライナ軍だったのか共和国側だったのかは分からない。
 米国・NATOの動き、ドンバスの軍事情勢、民間人死傷者に関するデータなどから、どのようにこの戦争が始まったのか分析を試みる。
 ウクライナが独仏露ウ会合でミンスク合意の適用を拒否した2月11日、バイデン大統領はNATO・EUの指導者に「プーチン氏がウクライナの侵攻を決定し、16日にも攻撃する」と伝えた。
 13日、OSCEウクライナ特別監視団が「最近、特定の参加国が、自国の監視員は数日以内にウクライナから退去すべきだという決定を下した」というプレス声明を出す。
 同日、ロシア外務省のザハロワ報道官は「この決定には深刻な懸念を抱かざるを得ない。監視団は米国によって故意に軍事的ヒステリー状態に引きずり込まれ、今後起こりうる挑発の道具として利用されている」と反応した。
 13日にはルガンスク人民共和国の幹部も「米英・EUの監視員の撤退はウクライナと西側が大規模な挑発を始めることを意味する」と発言し、ドネツク人民共和国の幹部は「米英・デンマークの監視員が共和国を去った」と話していた。
 17日、米英などに拠点がある「戦争・平和報道研究所(IWPR)」も、「情報筋によると、2月16日時点で米英・カナダ・デンマーク・アルバニアがウクライナから監視員を撤退させ、オランダは政府管理地域へ団員を移動させた」と報じている。
 実際に集中砲撃が始まる16日の前に米国と一部のNATO加盟国は自国監視員をウクライナあるいは共和国側から退去させ、バイデン氏の「予言」は西側メディアでも機能し続けていた。
 一方、ロシアは監視活動の継続を訴え、国連安保理でもウクライナを侵攻する計画はなく、軍事的緊張を高めているのは米国率いる西側だと非難し続けていた。
 このような状況下、まだ多くのOSCE監視員がミンスク合意の遵守を監視する中、まさに予言された日から共和国側が政府管理地域との境界線上で全面戦争を始めたとは考えにくい。
 2月16日にはロシアのペスコフ大統領報道官が「全世界は既にウクライナ政府がドンバスで軍事作戦を始めたことを目撃した」と発言している。
 また、昨年12月1日にロイター通信は、紛争地のドンバスに12万5000人の部隊を配備したウクライナをロシアが非難したと報じていた。
 今年2月21日には国連安保理でロシアのネベンジャ国連大使が、ウクライナがドンバスの境界線に12万の部隊を配備していたと指摘した。
 2・24前に西側メディアの多くは、10~15万のロシア軍がウクライナとの国境周辺にいると報道し続けたが、2・16から約12万のウクライナ軍と4万~4.5万と言われる2共和国の武装勢力が激しい戦闘状態に入ったという構図は伝えなかった。
 プーチン氏が両共和国の独立を承認するか不明だった16日の段階で、共和国側が米国などの最新兵器を有するウクライナ軍12万に対して全面戦争を始めるだろうか?
 ロシアが軍事介入した24日時点でも、総兵力31万以上のNATO化されたウクライナ軍と計約20万のロシア軍・共和国武装勢力が戦うという軍事情勢だったとも言える。
 さらに、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が今年1月27日に公表した「ウクライナにおける紛争関連の民間人死傷者」によると、2018年から21年までのドンバスでの激しい戦闘による民間人死傷者の81.4%は両共和国の管理地域内で発生しており、ウクライナ軍の攻撃の結果だと分かる(政府管理地域の民間人死傷者は、16.3%)。
 少なくとも2018年から、事実上のNATO軍になりつつあったウクライナ軍がロシア語話者の民間人も激しく攻撃し続けていたと言える。
 以上の状況から、断言はできないが、米国・NATOと一体化し、軍事力で反政府勢力を圧倒していたウクライナ政府が2月16日に戦争を始めた可能性が高いと言えるだろう。
 2・24にロシアがウクライナに軍事介入した理由は、ゼレンスキー政権がロシア語話者の住民を猛烈に砲撃し続けるのを傍観できなかったからだと思われる。
 1日の砲撃数が1481発まで激増した2月21日にプーチン大統領は2共和国の独立を承認したが、ウクライナ政府はロシアが集団的自衛権を行使することを知りながら、22日もロシア語話者の住民を集中砲撃し、米国・西側諸国はそれを黙認していた。
 プーチン氏が全面的な介入を選択した理由としては、以下の点が挙げられよう。
・マイダン革命後の8年間、米国・NATOに支えられたポロシェンコ・ゼレンスキー両政権は、ロシア系ウクライナ人のロシア語を使用する権利を奪い続け、自治の拡大と生存権を求めて闘っていたロシア語話者の自国民をテロリストと呼んで弾圧・攻撃・虐殺し続けた。
・2008年以降、米国はウクライナのNATO加盟だけは絶対に許容できないと訴えてきたロシアを無視し、14年からNATOと共に毎年約1万人のウクライナ兵を訓練し、2・24前までにウクライナ軍は最新兵器を備えた事実上のNATO軍になっていた。
・ネオナチとされる極右民兵などはロシア系ウクライナ人に対する拷問・虐殺などの犯罪を犯し続けたが、政府と裁判所だけでなくウクライナ社会全体に「ドンバスにいるロシア語話者のテロリストたち」に対する暴力を黙認するような「文化」が出現していた。
・ゼレンスキー大統領はミンスク合意で交渉当事者として認められた共和国側の代表との交渉を拒否し、両共和国の存在そのものを否定し、ロシアからクリミアを奪還すると公言し続けてきた。

 西側メディアは「2014年にロシアはクリミアを一方的に併合した」と報道してきたが、18世紀から1991年までロシア・ソ連領であり続けたクリミアでは91年と94年にも住民投票が実施され、クリミアの住民の多くは一貫してウクライナから分離してロシアへ編入されることを望んでいた。
 プーチン大統領は、NATOと一体化して年々強大化するウクライナ軍がドンバスのロシア語話者を全面攻撃し、ロシアにとって死活的に重要なクリミアにもいつ攻め込んでくるか分からない状況を「国家存続を脅かす事態」とみなし、「特別軍事作戦」を開始したと思われる。
 そもそも、ウクライナ語話者とロシア語話者が共存する多民族国家ウクライナに米国が介入しなければ、この戦争は起こらなかった。
 ロシアとも欧州とも協力し合わなければ、ウクライナが発展する道はなかった。にもかかわらず、2014年に米国は、ロシアを弱体化させて自らの絶対正義を世界に拡散させるために親欧米派を支援し、暴力的な政権転覆を成功させた。
 また、「革命」後に新政府がロシア語話者を弾圧・虐殺し続けなければ、クリミア編入もドンバス紛争もロシアの軍事介入もなかっただろう。
 2・24後に西側でロシアに対するヒステリー状態が生まれたのはなぜか。
 西側の指導者とメディアの多くが、客観的な情報やデータを無視し、別の世界観を持つロシアに対して恐怖感を抱き、「侵略国家ロシア」という思い込みから抜け出せないからではないか。
 ジャック・ボー氏や私の分析が絶対に正しいと主張するつもりはない。
 ただ、日本を戦争当事国から停戦の仲介国に変えるためには、中立機関の客観的データなどを基に冷静に議論を深めることが重要ではないだろうか。
 これからも一研究者として、常識や事実と宣伝される仮説について、一つひとつ丁寧に検証していきたい。
  


Posted by biwap at 10:22辛口政治批評

2023年03月24日

世界はどう動くのか


 世界はどう動いていくのか。新聞やテレビは世界を「切り取って」伝えているのだが、その「切り取り方」を問わない限り本当のことは見えてこない。いくつもの補助線を引いて、解に近づいていくしかない。見えているもの、見せられているものがすべてだと思わないことだ。
 時々、読んでいる田中宇の国際ニュース解説(無料版)を紹介したい。視点は面白いのだが、少しアクが強すぎるので抜粋引用する。

「中露モスクワ会談の意味」
 中国の習近平主席のロシア訪問が終わった。マスコミは中露敵視・中露結束軽視の歪曲報道ばかりだ。ウクライナ戦争だけでなく、米覇権の崩壊と多極化という大きな流れの全体にとって大事な転換点になりそうだ。今のところまだ明確な分析に出会っていない。自分で考えてみる。
 今、米欧が金融崩壊してドルの基軸性が失われていきそうな中で、中露主導の非米的・多極型の世界が立ち上がってきている。今回の習近平の訪露は、その立ち上がりを象徴する出来事だ。中露の政府は最近、多極化とか多極型世界といった言葉を頻繁に使うようになっている。習近平の訪露の主眼は、中露結束による世界多極化推進・多極型世界の構築の加速であろう。
 習近平は昨秋の共産党大会で国内の独裁体制を固めた後、外交大国になる道を猛然と走り出し、非米側の金資源本位制を強化するために大産油国であるサウジとイランの和解を仲裁し、それが終わるとすぐにロシアを訪問してプーチンと多極型の世界運営について話した。今回の習近平の訪露自体が、中国がロシアと共同で米覇権崩壊後の世界を作っていこうとしていることを示しており、多極型を志向する中国の姿勢を表している。多極体制は、中国(など非米諸国)を大きく安定・発展させる。
 中国のウクライナ和平提案に対し、米国は「中国はロシアのプロパガンダをオウム返しにしているだけであり、信頼できる仲裁者でない」と一蹴している。米欧は中国の和平案を無視して、追加の兵器弾薬をウクライナに送る戦争扇動策を決めている。だが対照的にウクライナのゼレンスキーは、中国の和平提案を歓迎し、習近平とバーチャル対談したいと言い続けている。ゼレンスキーは米英の傀儡でなかったのか?欧米がウクライナを軍事支援できなくなったら、ウクライナは中国の和平仲裁に頼るしかなくなる。ゼレンスキーはそのへんを見越している。
 中国はイランとサウジの和解を成功させ、ウクライナの仲裁を提案して、短期間で外交大国にのし上がった。中露は、共同でアフリカの安定化策も手がけ、これまでアフリカを覇権下に入れて混乱させるだけだった米仏の影響力を排除している。中露は、米国側が起こした世界各地の戦争を停戦させ、米国流の不安定化策を無効にする策を大々的にやり始めている。
 非米諸国は、これまで米国に逆らったら孤立化・経済制裁・政権転覆されて潰されただけだったが、今後は中露に頼って米国からの敵対に対抗し続けるようになる。これまで黙って不本意に対米従属してきた非米側の諸国が、中露の側について対米自立して非米型の新世界秩序に参加していく傾向になる。
 最近インドやブラジル、南アフリカといった大国群や、トルコやベトナムといった中規模諸国が米国側から非米側への移転を加速している。先進諸国、とくに敗戦後に米英から徹底的に洗脳された日独は、米諜報界による情報歪曲を軽信し続けているので、今の中露による多極化の動きを認識できず、米覇権とともに沈没しつつあるが、途上諸国や新興諸国はもっと非米的な傾向が強いので多極化の流れをつかんでいる。
 ウクライナの和平を提案した中国と対照的に、G7など米国側はウクライナの戦争を続ける姿勢をとり続けている。5月の広島でのG7サミットでは対露制裁とウクライナ戦争支援の強化を決める予定で、その下準備として、G7議長である日本の岸田首相が米国から加圧(命令?)されて3月21日にウクライナを訪問した。米国としては、日本を中国のライバルとして外交戦をさせるために、習近平の訪露と重なる日程で岸田をウクライナに行かせた観がある。
 習近平の訪露、岸田のウクライナ訪問と同期して、米欧の金融や経済の崩壊傾向が続いている。米金融システムは1~2年以内に全崩壊していきそうだ。金融が破綻したら米覇権も終わり、非米的で多極型の世界が席巻する。米国と傀儡諸国で構成するG7やNATOは無意味・機能停止する。米覇権が崩壊していくのだから、日本が米国の傀儡として中国と対抗したら必ず負ける。
 英国は、戦車の弾として劣化ウラン弾をウクライナに送ることにした。米NATOはコソボやイラクでも劣化ウラン弾を使って問題になった。英政府は「劣化ウラン弾は危険でない」と言っているが、少し前まで米英マスコミは「ロシア軍が劣化ウラン弾を使ってウクライナ人を放射能汚染している」とウソを喧伝していた(ソ連軍は劣化ウラン弾を持っていたが、ロシアは2000年までにそれらを処分し、その後は使っていない)。
 米英マスコミ自身が、劣化ウラン弾は戦争犯罪の道具であることを認めたことになる。G7サミットは、米国に原爆を落とされたヒロシマで行う。二度と核物質を戦争に使ってはならないと、日本人は80年近く祈ってきた。その象徴が広島だ。それなのに、核物質で戦争犯罪の道具である劣化ウラン弾を使うウクライナ戦争の支援を、G7サミットが広島で高らかに宣言する。ウクライナ(今はもうロシアに編入)のロシア系住民が劣化ウラン弾の標的にされることをマスコミは言わない。
  


Posted by biwap at 09:31辛口政治批評

2023年03月23日

反中亡国


 少し考えればわかる「当たり前の話」が「当たり前」にならない不思議の国イルボン。「反中亡国論」の著者・富坂聰氏の「台湾有事を大声で唱えるのは、アジアでは日本が最後になるかもしれない」を抜粋引用する。良くも悪くも常識的で「当たり前」の話だが、「思考停止・空騒ぎ社会」への鎮静剤になればと願う。

<中国は2005年の反国家分裂法の文言、「武力行使は放棄しない」などの表現を繰り返し用いているが、2019年からは明らかにその前後の表現を緩めているということだ。習近平国家主席自身「中国人は中国人と戦わない」と何度も繰り返し、間接的ながら大規模侵攻の必要性を否定しているのだ。
 要するに対台湾における習政権のトレンドは、明らかに融和へと向っているのだ。そして、その最大の理由は合理性にある。
 仮に多大な犠牲を払って台湾を統一できたとしても、その後、反中感情に燃える2000万人を支配するコストは膨大である。しかも戦争により一帯の経済発展の機会は失われ、西側世界を中心とした多くの国からの制裁にも晒されるのだ。
 そうなってしまえば、改革開放政策後、「発展こそすべて」と突っ走ってきた中国共産党にとって最大栄誉である「アメリカを超える経済大国に中国を導く」ことなど、夢のまた夢となってしまうはずだ。
 そんな選択をすることが、はたして本当に習近平指導部にとってのソロバン勘定に合うのだろうか。
 これに加えて日本人が冷静に考えなければならないのは、台湾が常に「反大陸」一色で固まっているのか、という疑問だ。
 中国の脅威を強調して、政権浮揚策につなげてきた蔡英文政権の支持率一つとっても、ずっと乱高下を続けてきたのが実態だ。それからも分かるように、台湾の人々の大陸に対する態度は一定ではない。事実、昨夏のナンシー・ペロシ前米下院議長の訪台の騒動では、その前後で蔡政権への支持率はかえって落ち込んでしまったのである。
 その理由の一つとして挙げられるのは、台湾の人々の間に持ち上がった警戒心がある。アメリカは台頭する中国をけん制するため中台の対立を利用しているのではないかという疑問だ。つまり、「駒として使われている」という自覚の芽生えだ。
 ウクライナ戦争も勃発から1年が過ぎた。そして、戦局を注視してきた台湾の人々の多くは、ウクライナがボロボロになっている姿と自分たちの未来を重ねている。それは、アメリカは「後ろから弾を補給してくれるものの戦ってはくれない」という現実だ。
 少なくとも中国と国交を結んでいる国は、強弱の差こそあれ、中華人民共和国を唯一の合法政府と認め、台湾を独立した国とは認めていない。つまり、中台の争いはあくまでも内戦という位置づけであり、「他国への侵略」として国際世論はまとまらない可能性が高いからだ。
 こうした疑問や不安は、台湾ではまとめて「疑米論」と呼ばれているのだが、その「疑米論」がいま、島内で静かに広がっているというのだ。蔡英文の後に民主進歩党の主席に就いた頼清徳は今年2月、これを懸念し「決して『疑米論』を台湾世論の中心にしてはならない」と呼びかけたほどだ。
 昨年末、蔡政権はこれまで18歳以上の男子に義務づけていた兵役の期間を現在の4カ月間から1年間に延長することを決めた。硝煙の匂いが現実味を帯びて近づいていることを台湾の人々も実感させられ始めている。そうなれば本当に戦うことの無益さを意識せずにはいられないだろう。
 ウクライナ戦争の状況を見れば明らかなように、戦争を防げなかった一帯に勝者はいなくなる。ロシアもウクライナも欧州全体が敗者なのである。欧州経済のダメージの大きさが何よりも如実にそのことを語っている。
 アジアが戦争に巻き込まれることを警戒して東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々は、いま米中対立をアジアに持ち込もうとするアメリカにネガティブであり、台湾の極端な行動にも反発する傾向が強い。
 アジアの繫栄は戦争では得られないのだ。>
  


Posted by biwap at 10:34辛口政治批評

2022年10月25日

カッコいい!


 欧州議会における一人の女性議員のスピーチが、インターネットにのって世界を駆け巡っている。ロシア制裁ウクライナ支援一色に見えるヨーロッパの中で、アイルランド出身のクレア・デイリー欧州議会議員の発言が異彩を放っている。





 歴史は、制裁は軍事的な対立を終わらせないし、平和をもたらさないことを教えてくれています。民衆を苦しめるだけです。ロシアの人々、ヨーロッパの人々。ウクライナに武器を送れば送るほど、人命救助には役立たない。戦争が長引けば長引くほどウクライナ人がより多く死ぬことになる。




 戦争に対する答えは、さらなる戦争ではなく、平和なのです。そして、平和は銃口によってもたらされるものではありません。外交や対話によってもたらされるものです。



 ロシアと大陸を共有している私たちはロシアと一緒に座る。交渉による平和を実現する。そして、この組織はもっと早くそれを推進すべきなのです。それを遅らせてウクライナ人がもっと死ぬようにするよりも。



 デイリー議員はアイルランドの首都ダブリン選出の欧州議会議員。議会では背広姿の男性議員を尻目に、ジーンズ姿で熱弁を振るった。
「私たちが今やっていることは、まさにロシア叩きです。EUはヨーロッパやウクライナの人々の利益になる行動をする代わりに、ヨーロッパ、ウクライナ、ロシアにいるすべての人々をNATOの戦争と軍需産業の道具として利用している。
 今必要なことは武力行使を止めさせ、軍事主義の根を断ち切り、話し合いでの解決によって平和を構築することです。それ以外、私たち自身を共犯者であることから救う道はありません。」
  


Posted by biwap at 13:44辛口政治批評

2022年10月04日

プーチンかく語りき


 ウクライナ東部・南部「ドネツク、ルガンスク、ザポロージャ、ヘルソン」が住民投票の結果、ロシアへの編入を決定した。かの朝日新聞は「ロシア、4州強制併合」と報じた。
 何が真実か、その全体像をつかむことなど不可能である。でも少なくとも、一方的な報道には少し立ち止まり、その背景を探り、違う意見も考慮しながら、合理的な判断を一つ一つ積み重ねていくことはできるはずだ。
 西側からの一面的報道と同じように、これも一種のプロパガンダであることは間違いない。でも、メディアが封殺したものの中に別の真実が隠れていることもある。以下、ロシア連邦加入調印式典のプーチン大統領のスピーチの一部を抜粋する。


<ロシア国民の皆さん、ドネツク・ルガンスク人民共和国の皆さん、ザポロージャとヘルソンの皆さん、ロシア下院議員およびロシア連邦上院議員の皆さん。
 住民投票が4州で行われ、集計結果が発表されました。人々の想いは明らかです。
 今日、ドネツク、ルガンスク、ザポロージャ、ヘルソンの4州がロシア加盟する条約に署名します。ロシア加盟の手続き、そしてロシアにおける新しい4州の立ち上げの法整備について、連邦議会がこれを支持する事は疑いようがありません。
 何故ならそれが何百万人もの人々の想いだからです。
 これは国連憲章第1条にある「人民の同権および自決の原則」つまり人々の基本的権利に当たります。
 繰り返します。人々の基本的な権利とは
 私たちが歴史的に受け継いできたものに由来します。古代ルーシの時代からロシアを築き、守り続け勝ち取った権利です。
 2014年、ウクライナで起こった”ロシアの春”においてネオナチによるクーデターに異論を唱えて死んでいった人たち、母国語と文化、伝統、宗教などの人権の基礎を守ろうとした英雄たちも歴史に刻まれるでしょう。


 ドンバスの兵士や、ウクライナ政権によるテロ攻撃が引き起こしたオデッサの悲劇の犠牲者たち、ボランティア、民兵、市民、子供、女性、お年寄り、ロシア人、ウクライナ人、様々な国の人たち。
 ドネツク、ルガンスク人民共和国、ザポロージャ、ヘルソンの何百万人もの人々の選択は、ロシア1000年の歴史と共に歩むことでした。人々は子供に孫に魂を繋いでいきます。人々は厳しい試練に耐えながら、ロシアへの愛を持ち続けた。この想いは誰にも破壊できない。それがお年寄りも、ソビエト崩壊後に生まれた若い人たちも同様にロシアとの統一、ロシアとの共通の未来を望んだ理由です。


 8年と言う長い間、ドンバスの人々は虐殺に晒されました。閉じ込められて砲弾を浴び続けたのです。ヘルソンとザポロージャでは、ロシアのすべてに対する憎しみを増強するための刑法が施行され、それは今でも続いています。住民投票の間ですらウクライナ政権は学校の先生や、投票管理で働く女性を報復として殺すと脅されました。人々が投票と言う形で気持ちを表現する事をウクライナ政権は脅かしたのです。しかしドンバスとザポロージャ、ヘルソンの人たちは屈することなく声を上げました。
 ウクライナ政権と、彼らを動かしている西側に聞いてもらおう。
 覚えておいてください。ルガンスク、ドネツク、ヘルソン、ザポロージャに住む人々は、ロシア国民になりました。永遠に。


 ウクライナ政権に即時停戦と敵対行為の停止を訴えます。2014年に始まったこの戦争に終止符を打って和平協議に戻りましょう。何度も言ってきましたが、私たちは準備ができています。ただし、ドネツク、ルガンスク、ザポロージャ、ヘルソンの人々については話し合いません。すでに結果は出ました。そしてロシアは人々の気持ちを裏切りません。
 現在のウクライナ政府は人々の希望を尊重しなければならない。他に方法はなく、これが平和への唯一の道です。
 破壊された街や村は、住宅、学校、病院、劇場、美術館などすべて再建します。産業、工場、インフラ、社会的安全、年金、健康保険、教育機関などすべて復興します。
 特に安全の向上は力を入れていきます。そして今回新たにロシアに加わった皆さんには、ロシア国民・連邦全土、共和国、領土、州、すべての支援を感じていただけるでしょう。


 ウクライナにいる我々の同胞、仲間は欧米と言う支配者クラスが人類に対し何の準備をしてきたのか、その目で見たでしょう。彼らは仮面を外し、何者であるのか正体を現しました。
 ソビエト連邦が崩壊した時、西側は今後全世界が彼らの要求をすべて聞くと決めつけました。1991年西側は、ショックで粉々になったロシアが二度と国力を取り戻すとは思わなかった。実際その通りになりました。1990年代、私たちは空腹で寒く、希望も無かった。しかしロシアはかろうじて自分の足で立ち、息を吹き返し、さらに強くなって、世界のあるべき場所にたたずんでいる。
 その後も西側は何度となくロシアを吹き飛ばし破壊する方法を模索してきました。ロシアの分断、内紛、貧困と絶滅を夢見ているのです。何故なら彼らは知っています。我々が世界でも巨大な領土を持ち、自然と資源の豊かな国であり、ここに住む人は人の賭けに乗らない人々である事を。
 西側は新植民地主義を保つために平気で一線を越えます。ドルとテクノロジーによって覇権を握り、人々から貢物を受け取りながら、働かずとも繁栄するソースを持っている。最後に覇権者に流れるようになっているシステムがあるのです。
 そしてこのシステムの保持が、彼らの利己的かつ本質的な目的なのです。
 その為に彼らは世界の完全に”脱主権”に向けて突き進んでいます。それは彼らの攻撃性が向く方向を見れば容易に説明できます。
 彼らは、独立している国、特に伝統を重んじて独特の文化を持つ国に対し、国際的な競争力を失わせ弱体化を徹底的に行います。彼らのコントロール外である、独自の通貨や独自の技術も潰します。


 全世界の国々がアメリカへ主権を渡す事が彼らには最も重要なのです。
 一部の国では支配エリートが進んでこれに取り組み、喜んで家来になります。さもなくば、買収または脅迫です。
 そして買収と脅迫の効果が無かった場合、徹底的に国全体を破壊します。後に残るのは人道的危機、荒廃、廃墟、何百万人もの人の死、乱発するテロリズム、社会的災害、植民地、セミ植民地、彼らは気にしません。
 彼らが気にするのは利益だけです。


 西のエリートたちは、自分たちが過去に犯した犯罪をよそに、例えば、植民地時代のことなど関係ないように振舞うよう強要します。
 この植民地主義は中世にまでさかのぼります。世界中で行われた奴隷貿易、アメリカ先住民族の虐殺。
 インド、アフリカからの略奪。
 イギリス・フランスの中国に対する戦争は、アヘン貿易の為に無理矢理中国に港を開けさせ、全国民をわざと麻薬中毒にし、動物のように人を狩り、一つの民族を絶滅させたのち、土地と資源を奪いました。
 人類の真実、自由、正義とまったく逆です。
 20世紀に入り、わが国では反植民地運動が始まりました。これは誇るべき流れで、世界の沢山の人々が貧困の減少、不平等の解消、飢餓と疫病を減らす事ができました。
 西側諸国は何百年も自由と民主制を国々に届けると言いながら、何一つ真実ではありませんでした。民主制を持ち込むどころか、抑圧して搾取した。
 そして自由を与えるどころか奴隷にし、迫害した。一極支配は本質的に反民主的、反自由です。そのすべてが嘘と偽善です。


 アメリカの独裁は、雑な軍隊の”ぶん殴りの法則”により保たれています。
 時として完全に隠されていますが、全く隠す事もなく堂々と行われる場合も要点は同じ”ぶん殴りの法則”です。世界の隅々まで何百もの軍事基地を保有し兵を配備しており、NATOを拡大、AUKUS(豪・英・米)や、米・韓・日の軍事チェーンも展開、もし独自の主権を主張しようものなら即座に覇権国から敵国認定を喰らいます。
 アメリカとNATOの軍事ドクトリンには、完全支配を目指している原理が隠されています。西のエリートは「平和」や「抑止力」などの言葉を使ってごまかしながら、新植民地計画を遂行しているのです。聞こえる言葉は常に変化していきますが、達成しようとしている事は一つ、主権を持つ国の政府を弱体化させる事。
 最近の「ロシア、中国、イランの抑止」と言う言葉は、誰でも聞いた事があるでしょう。今後このリストにはアジアの国々、ラテンアメリカ、アフリカ、中東が加わり、さらに現在のアメリカの同盟国も加わるでしょう。
 現在の新植民地モデルは完全に崩壊しています。これは明確です。
 しかし首謀者は最後まで同じ事を繰り返すでしょう。彼らは世界が望むことを理解できずに、脅しと略奪以外に方法が見つからないのです。


 世界は根本的改革の変化の時代に突入しました。新しい権力の集中が見られます。大多数!大多数の国々が、自分の方針を発信し、それを守る準備ができています。人々が多極的世界に見るのは、主権強化のチャンス、純粋な自由と歴史的ものの見方、自律性、創造性、個性的発展、協調性。
 私たちと似たような考えを持つ人々がヨーロッパにもアメリカにもいて、彼らのサポートを感じています。一極覇権に反対する開放的な反植民地運動が世界各国で起こっています。人々の想いは時と共に大きくなるでしょう。
 今私たちは公正で自由な道へ進みます。まずは自分たちのために、そしてロシアのために。独裁と専制は過去のものです。>
  


Posted by biwap at 09:38辛口政治批評

2022年09月27日

Amazonに労組を!


 あり余った資金が国民生活に還元されず、株式市場でのバクチや不動産に流れ、住宅価格や物価が高騰する。真面目に働く労働者でさえアパートにも入れず路上で暮らしている。医療保険がないため医者にもかかれず、薬代や医療費破産が過去最高に達し、インフルエンザですら毎年数万人が死亡する。学生はローン返済で首が回らない。「自由の国」アメリカの「新自由主義」の姿だ。
 コロナ・パンデミックの中、新自由主義がもたらした犯罪性が明らかになり、若者や労働者たちが自分自身の力で行動を起こし新しい高揚をつくり出している。


 年間売上高1584億㌦(22兆6000億円)を達成し、「世界小売業ランキング2021」で2位となったアマゾン。現在、米国で50万人以上を雇用するモンスター企業。創業者ジェフ・ベゾスは米国でもっとも裕福な3人のうちの1人だといわれる。
 新型コロナが猛威を振るった2020年春以降、アマゾンの利用者は急増。企業が記録的な利益をあげる一方で、従業員は劣悪な状態で酷使されている。破滅的な作業ペース、懲罰的な監視、高い労働災害率。
 物流倉庫JFK8では毎日約5000人が働いている。その多くが黒人やヒスパニックである。JFK8では人手不足となり、毎日大量の労働者が採用され、同時に多くの者がやめていった。
 とくに企業の感染対策はきわめて不十分で、感染者や濃厚接触者となれば自宅待機となって給料は支払われない。エッセンシャルワーカーと持ち上げながら、労働実態は低賃金の使い捨てであることに、労働者の怒りは爆発した。
 しかし、有給休暇や健康管理の改善、危険手当の支給などを企業に要求するために労働組合をつくろうとすると、壁が立ちはだかる。米連邦法の規定では、労働組合をつくるにはその職場の全従業員の30%以上の署名を得た上で、全国労働関係委員会に組合結成選挙の申請を行わなければならない。その後、全従業員による選挙をおこなって過半数を獲得してはじめて労組結成となる。
 JFK8の場合、5000人の30%は1500人だ。それを20~30代の若者たちが、既存の大産別労組の支援をまったく受けないで、自分たち自身の力で一人一人に訴えてやりとげた。


  アマゾン初の労組結成を祝う労働者たち(4月13日)


 ニューヨーク市スタテン島にある物流倉庫「JFK8」で4月、アマゾン初の労働組合「アマゾン労働組合(ALU)」が結成されたというニュースは世界に衝撃を与えた。労組の代表は33歳、アフリカ系アメリカ人のクリス・スモールズだ。「あのアマゾンでできたのだから、どこでもできるはずだ」と、全米の労働者を勇気づけた。
 組合結成に対してアマゾンは、25件以上の異議を申し立てており、全国労働関係委員会がアマゾン労組の側に偏っていると非難している。しかし4月の勝利以来、アマゾン労組(組合員約8000人)には全国の100のアマゾン施設の労働者から「組合を結成したい」との声が寄せられている。


  スターバックスの組合つぶしに抗議するデモ(4月23日)

 同様の動きになっているのが、米コーヒーチェーン最大手のスターバックスだ。スターバックスでの労組結成の波は、2021年12月、ニューヨーク州バッファローの店舗で始まった。そこでの従業員投票では、19対8で勝利。同社初の労組が誕生、そこから「スターバックス・ワーカーズ・ユナイテッド」への大結集が始まった。労組発足の中心を担ったのは24歳の女性だ。
 それから8カ月経った2022年8月末には、新しい組合は全米225店舗で組合選挙に勝利。6000人以上が新規に加盟した。その多くが高校生や大学生、大学卒業したての若者だ。そしてこれらの店舗の3分の1がストライキに突入し、さらに数百の店舗が組合結成を準備しているという。
 スターバックスの従業員が問題にしているのは、パンデミックで客や従業員のなかで感染者が急増し、身の危険を感じて保護シールドなどを求めているのに、企業側が安全対策としてなにもしなかったこと、対応しきれないほど多くの客が来ているのに、人員が十分確保されていなかったことなどだ。「エッセンシャルワーカー」といわれながら消耗品にされている現実に皆が怒り、そこから組合結成に動いたという。
 一方、CEO(最高経営責任者)のハワード・シュルツは大規模な反組合キャンペーンを開始。組合を結成した数十の店舗を閉鎖し、全国80人以上の組合指導者を解雇した。また、監視や脅迫を行い、さらには「全国労働関係委員会が組合と共謀して詐欺を行っている」といって訴訟まで起こす有様。労働法違反を含むなりふり構わない「労組つぶし」を仕掛けている。組合つぶしのために、CIAのエージェントを雇ったことも暴露されている。
 これに対して各地のスターバックス労組は、組合活動家の解雇、人員不足、労働時間(シフト)の削減、企業による組合支持者のスパイ行為などに対して抗議するストライキをおこなって反撃している。
 スターバックスは、テネシー州メンフィスのポプラ・アンド・ハイランド店で、今年2月、組合組織委員会の7人全員(黒人とヒスパニック)を報復解雇した。これはもっとも悪質な人種差別的組合つぶしだとして、地域住民の憤激を呼び起こした。それから半年後の8月、連邦判事は7人の復職を命じ、企業は彼らを再雇用した。


  スターバックス本社前で抗議する従業員たち(2月15日)

 こうした運動の担い手は、プロの労働組合活動家とは無縁の、労働運動の経験がほとんどない、有名な大学などに通う高学歴の若者たちだ。彼らが義憤と賢さを発揮して、大規模な組合攻撃を跳ね返し、その経験を「Zoom」などを使ったオンライン会議で全米の店舗に広げることで同僚に手を差し伸べ、それが労組の急増につながっている。
 これに対して企業側は組合つぶしのプロを雇って各店舗に派遣し、従業員たちを拘束して組合から脱退するよう説得しているが、若者たちはそのマニュアルを分析して撃退法を編み出し、それを各店舗で共有しており、組合つぶしの側が彼らに言い負かされてすごすごと帰って行くのだという。今では組合つぶしが来るのを楽しみに待つまでに若者たちが労働運動の組織者として成長しているのだという。
 この中で、SDGsやブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命を守る)運動、セクシャル・マイノリティの権利に賛同する「リベラル」な姿勢を売りにしてきた「スターバックス」のインチキを暴き出している。


  ストライキを決行した医療労働者(9月12日)

 こうした動きの中心を担っているのが、20~30代の若者たちだ。2008年のリーマン・ショック以降、不安定雇用が拡大して低賃金や失業に苦しむ者が増え、大学の学費は高騰して奨学金のローン地獄に陥る若者が増大するなど、行き詰まる資本主義の矛盾が若者に集中してあらわれた。現在、アメリカの18歳から29歳の若者の過半数が資本主義に反対しており、33%が社会主義に肯定的だという調査結果も出ている。
 1980年代にレーガン政権が「新自由主義」に舵を切って以降、「小さな政府」を掲げた民営化や規制緩和による私的利益追求の結果、経済格差は拡大し大多数の貧困化が進んだ。しかしアメリカの労働運動は、新自由主義に対して抵抗力を失い、譲歩に次ぐ譲歩を重ねてきた。現在、アメリカの労働組合組織率は、全労働者のわずか10%程度にとどまっている。労働組合は弁護士とスタッフが年金管理などをおこなう管理会社のようになっており、労組幹部は高い給料を懐に入れていると揶揄されている。
 一方、新自由主義に対する抵抗運動は徐々に表面化し力をつけてきた。そうした蓄積のうえに、昨年の世論調査では「労働運動を支持する」と答えた人は米国民の68%と、1965年以来最高になった。成績優秀な大学生のなかでも、世界的IT企業で活躍したいという以前の志向は影を潜め、労働運動にかかわる仕事に人生を捧げたいと考える人が増えているそうだ。
 今年6月にシカゴで開催された「レイバーノーツ(労働運動のなかに本物を取り戻そう)」大会には約4000人が参加した。1979年設立当時は数十人から数百人規模だった。しかも参加者の中身も、従来の組合専従活動家から一変し、多くが現場の労働者であり、スターバックスやアマゾンから10代、20代、30代の労働者がたくさん参加したという。
 アメリカの政党である「アメリカ民主社会主義者(DSA) 」は、かつて党員が5000人程度、それも60~70代が多かったのが、今では20~30代が中心になり、党員も10万人をこえたといわれる。「民主社会主義者」の大会では、大会決議はなく、党員はみな平等で自由な立場で参加し、支部をつくるのも党員に任されている。ただ、重要問題については盛んに論議をして一致を勝ちとり、そのなかからすぐれた活動家が次々に生まれている。
 そこで掲げられている社会主義とは新自由主義反対であり、私益にもとづいた経済政策、疎外された労働、富と権力の不平等、人種・性別・性的志向などあらゆる差別を拒絶し、資源や生産手段の一元的管理、公平な再分配などを主張している。また、政策として国民皆保険、最低賃金の引き上げ、大学の学費の無償化などを掲げ、支持を広げている。
 アメリカ労働運動の新たな高揚は、新自由主義に対する歴史的な反撃であり、そこに「新しい社会」への志向を見てとることができる。
 中江兆民は言った
 「自由は取るべき物なり、もらうべき品にあらず」
  


Posted by biwap at 11:11辛口政治批評

2022年09月13日

女王を悼めども、帝国を悼むまじ


豪シドニー・オペラハウスに映し出されるエリザベス女王の肖像


 英国の女王エリザベス2世が8日、96歳で亡くなった。在位70年。「大英帝国」元首となると、現在この地球上で生きている人間の大半が、彼女にまつわるなんらかの記憶を保持している。
 英王室が植民地主義の象徴であったことは間違いない。エリザベスを悼むのは白人国家に限られている。インド人はエリザベスの死を悼むまい。
 The New York Timesの記事「女王を悼(イタ)めども、帝国を悼むまじ」(Mourn the Queen, Not Her Empire 2022/9/8)では、「光」の裏にある「影」にも触れている。たとえば、植民地での暴虐を詳述した「不都合な」文書が、長らく隠蔽もしくは破棄されていたことなど。
 首相がバッキンガム宮殿で女王と会談した内容は「ブラックボックス」とされるのが掟であった。「私がこの世で信頼する人間は二人だけ。一人は妻、もう一人は女王」と言った首相もいたとか。ともあれそこは、「開かれた」どころか機密だらけの場であった。
 ダイアナ妃の時の、国民から「冷たい」と言われてやっとの追悼演説。世界の支配構造の表も裏も知り尽くしたベテラン女王には、「開いた」ことよりも「閉じて」おいたことの方がはるかに多かった。女王の抱えていた重圧は察するに余りある。
 女王陛下という、世界の大きな「ブラックボックス」が消えた後、英連邦では不穏な動きが。
 ところで、カナダの国家元首は、オーストラリアの国家元首は、ニュージーランドの国家元首は、いったい誰か?
 答えはすべて「チャールズ3世」。少し前までは「エリザベス2世」だった。世界にはこんな「アホな話」がザラにある。


豪キャンベラにある連邦議会議事堂前のエリザベス女王像


 英君主となった国王「チャールズ3世」は、英国以外の14カ国の公式の元首でもある。こうした国々には、オーストラリア、ニュージーランド、カナダおよびカリブ海と太平洋の幾つかの島国が含まれる。
 ニュージーランドの先住民マオリで、共和制運動に積極的に参加し、学界で働くアレティ・メトゥアメート氏は「変化が起きると確信している。人々はこれから、この問題についてもっと真剣に考え始めるだろう」と話した。
 女王の死去以前から、一部の国は、植民地主義に由来する英君主との関係を終わらせるべきだとの考えを示唆していた。バルバドスは昨年、君主制を放棄した。英連邦だった国でこうした動きが見られたのは約30年ぶりだった。ジャマイカを含む他の幾つかのカリブ諸国も、関係を断つ準備を進めている。
 カリブ海の島国アンティグア・バーブーダのガストン・ブラウン首相は、11日に放映された英テレビネットワーク、ITVニュースとのインタビューで、恐らく3年以内に、共和国に移行すべきかどうかについて国民投票を実施したいと語った。アンティグア・バーブーダは、かつて英国が領有していた。
 カナダの調査機関アンガス・リード研究所が4月に発表した世論調査によると、カナダ国民の60%近くがバルバドスやジャマイカなどの国が君主制を断ち切ろうとする動きを支持していることが示された。また、カナダ国民の半数は、同国が今後何世代にもわたって立憲君主制を維持すべきだとは考えていないと答えた。
 オーストラリアの最近の世論調査では、君主制存続より共和制移行を支持する国民が多いことを示している。中道左派のアンソニー・アルバニージー首相は今年5月の総選挙で勝利を収めた後、共和制問題の担当相を任命し、この問題に改めて国民の関心を引き寄せた。
 ニュージーランドでは、2016年の国民投票で、国旗からユニオンジャックを消し去るという案が否決された。しかし、一部の議員は共和制への移行を求める活動を展開している。マオリ党は今年、英君主をニュージーランドの国家元首とする現行制度の廃止を求めた。
 「アベの国葬」に比べて「エリザベスの国葬」は格が違うんだと、「アベ国葬批判」の文脈でリベラル風な人が喋っていた。イヤイヤ、国葬や君主制の持つ差別性にキチンと目を向けなきゃ。この世に数多(アマタ)ある「アホな話」に立ち向かっていかなきゃ。
  


Posted by biwap at 11:19辛口政治批評