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2023年09月22日

再エネに侵される阿蘇山

再エネに侵される阿蘇山

 熊本県にそびえる阿蘇山。世界最大級のカルデラと、雄大な外輪山を持つ活火山。毎年国内外から多くの観光客が訪れる。外輪山に広がる日本最大級の草原は、古代から人々が牛馬とともに野焼きや採草、放牧をおこなって守ってきた。ところがその阿蘇外輪山の南側に、福岡ドーム17個分といわれるメガソーラーが突如あらわれて人々を驚かせている。

再エネに侵される阿蘇山

 阿蘇外輪山の南側、熊本県山都町。約119㌶の土地に太陽光パネル約20万枚が、まるで無造作に置かれたように平地や斜面を覆い尽くしている。
 遠くを眺めれば、真っ青な空に緑が映える、夏の阿蘇山の中岳や根子岳。その雄大な自然とはあまりにミスマッチな、黒々と光る大量の太陽光パネル。
 再エネは「地球に優しい」といいながら、長年月にわたって守られてきた大自然にこんなことをしていいのか。地元の住民は「ここに来ると吐き気がする」と語る。
 太陽光パネルが置かれた場所は、外輪山の尾根部分に当たり、かつては牛を放牧する牧草地だった。10年ほど前までは野焼きもやっていたという。
 同時にここは、町民に命の水をもたらす神働川の水源地。町民はここから出る豊かな湧き水をためて牛に飲ませたり、野菜を洗ったりしてきた。ところがメガソーラーができると雨が降っても土地に浸透せず、パネルの表面を流れ下って問題になっているという。

再エネに侵される阿蘇山

 ところがこれだけ巨大なメガソーラーだが、山都町の町民はほとんどが知らないという。通常ここまで登ってくる人はまれなのだ。
 熊本県上益城郡山都町は、北は阿蘇外輪山の南側、南は九州山地に接する山に囲まれた町。人口約1万2000人。農林業で成り立っている。
 この町にメガソーラーの建設計画が持ち上がったのは、2017年頃。2018年2月には、神働川の源流に一番近い目細地区に、事業者が高森町の牧野組合を連れて説明にやってきた。建設予定地の牧草地は山都町にあるが、その所有権は隣の高森町の牧野組合が持っていた。

再エネに侵される阿蘇山

 目細地区の男性はいう。「うちの集落には14軒が暮らしているが、みんなが反対した。というのも50年前、国の補助金事業で原野を草地改良するためブルドーザーで山を削ったところ、大雨が降ったとき田んぼに泥水が流れ込む大災害になった経験をしていたからだ。だから、また同じことにならないようにとみんなが反対した。反対したのに、その後事業者はわしらになにもいわないまま工事を始めた」
 目細地区のもう一人の男性は、開口一番「説明会はまるで脅しのようだった」といった。「“火事になっても知らんぞ”“養豚場をつくるぞ”といったり、“ここの部落が反対してもつくる”といったりした」
 2019年12月に起工式があり、工事が始まった。現場を見に行った住民は「私たちは太陽光発電と聞いて、牧野の草を刈ってそこに建てるのだと思っていた。ところが広大な牧野の表土がすべてはぎとられ、木は伐採、伐根されて、泥がむき出しになっていた」という。「説明会で事業者が“除草剤を撒く”と話したので、“除草剤を大量に撒くのはだめ”といったのよ」とも。
 そして2020年6月、梅雨時の天気のいい日に、どぶどぶに濁った泥水がいきなり田んぼに入ってきて稲をなぎ倒したので、目細地区の農家はびっくりした。水は白茶色で、「軟弱な地盤を固めるために大量に石灰を撒いたんじゃないか」と語られていた。
 農家の人たちが上流を見に行くと、工事業者がいて、「あんたらか?」と聞いたが、「一切流していない」という。町役場にも訴えたが、逆に事業者が役場にやって来て「泥水がうちの工事から出ているという根拠がどこにあるのか」という。そこで農家が川をさかのぼって登っていき、工事業者がホースで泥水を流していた場所をつきとめ、写真に撮って突きつけた。それでもなにも変わらなかった。
 この泥水被害について、いまだに事業者はなんの補償もしていない。住民たちは町長や町役場に何度も訴えたが、業者と結託した町も町民を守ろうとしない。今後、もっと大きな災害が起こったときはどうなるのか。

再エネに侵される阿蘇山

 メガソーラー建設予定地の牧草地は、もともと隣接する高森町の牧野組合の25人が共同所有し、牛を放牧していた。その25人が印鑑を押して、牧草地を事業者に売却した。しかし、山都町の農業委員会としては「ここは国の草地改良事業をおこなった牧草地であり、第一種農地であるから、農地転用は認めない」と決めた。
 ところが事業者は、牧野組合を連れてきて、農業委員会立ち会いのもとでの現地視察を求めた。現地は放牧をしなくなってから3年経っており、荒れていた。それを見て事業者が「なにが農地か。原野じゃないか」といい始めた。
 山都町の農業委員は、「県にも国にも問い合わせたが、どう対応していいかわからない。ついに農業委員会として、130haのうち1割程度を農地とし、あとは非農地とした。非農地にしたのが間違いだった。これが向こうの狙いだったんだ」と、悔やみながら何度も強調した。
 一方、山都町長も議会の議決を経ないまま事業者と協定を結び、開発許可を出していた。町議が協定書を見せてくれと要求したが、「協定書のなかに、第三者に見せてはならないという条文があるので見せられない」と拒否されたという。
 メガソーラーをつくるのに環境アセスはなかったのか?当時、太陽光発電の建設にアセスは必要なく、住民説明会も自治体の審議会も開催されない。こうして地元同意のないまま、メガソーラーの建設が進んだ。

再エネに侵される阿蘇山

 阿蘇外輪山には現在、約460戸の農家が参加する156の牧野組合があり、合計して約6000頭の牛を放牧している。しかしこの牧野組合も、年々高齢化が進み、後継者がいない状態で、メンバーも徐々に減っており、「10年後には今の野焼きも続けられない」という。
 牛の値段は暴落し、一方で輸入配合飼料はうなぎ登りに高くなっていく。廃業する畜産農家がたくさん出てくる。高齢化し、牧草地は荒れ、牛の数も減少していく。結局、土地を売ることになる。
 第一次産業が困難な状況につけ込んで、再エネ事業者が土地を買い占め、メガソーラーや大規模風力発電を次々につくっていく。

再エネに侵される阿蘇山

 山都高森太陽光発電所の土地登記は、26年間の地上権設定契約となっている。地上権設定期間が26年だと、地権者はその間、契約を解除することはできない。一方、事業者はこの期間、事業の採算がとれなくなったら、他の事業者に転売することも、事業ごと譲渡することも、一方的に撤退することも可能で、これに地権者が口を出すことはできない。
 地上権設定契約書の中に「倒産隔離」条項が入っている。それによって、たとえば台風がきて太陽光パネルが壊れ、修繕費用がかさんで事業の採算がとれなくなった場合、事業者は勝手に撤退でき、撤去費用は地権者や地元自治体に押しつけることができる。
 再エネをつくる場合、多くの事業者は合同会社を立ち上げる。山都高森太陽光発電所の場合、JREとSMFLみらいパートナーズが共同投資契約を結び、合同会社JRE山都高森をつくっている。通常、各企業はこの合同会社に資本金100万円程度の少額を入れ、そこに銀行からの融資などを呼び込む仕組みをつくっている。
 そして、台風などでメガソーラーが稼働できなくなり、事業者が事業から撤退するとき、地上権設定契約で「倒産隔離」条項が入っていれば、事業者は「責任財産」(この場合は合同会社に出資した100万円)だけを負債にあてると、それ以上の財産を失うことなく計画倒産することができる。そして壊れたメガソーラーはそのまま山の上に残される。壊れた太陽光パネルからは、鉛やカドミウムなどの有毒物質が流出する危険性があるにもかかわらず。

再エネに侵される阿蘇山

 阿蘇外輪山のメガソーラーだと、撤去費用は数億~数十億円はかかる。地上権設定契約では、この費用を地権者が負うことになり、それは事実上不可能なので、町や県が税金で負担しなければならなくなる。全国の風力や太陽光の用地取得は、多くがこのやり方でやられている。
 一方、町に入るメガソーラーの固定資産税は、年間1億円とも1億5000万円ともいわれる。収入源の乏しい町の窮状につけこむ手口だが、実際には将来にわたって何倍もの負担がおしつけられることになる。

再エネに侵される阿蘇山

 「CO2削減」「地球に優しい」といいながら、阿蘇の豊かな山々を破壊し、水源地を潰して巨大なメガソーラーをつくるのだから、まさに本末転倒である。しかも風力や太陽光は自然に左右される不安定な電源なので、火力発電のバックアップがなければ成り立たず、九電管内は太陽光発電をつくりすぎたために、何度も出力制御をやって太陽光で発電した電気を捨てている。
 日本が本来の独立国なら、政府は国民の食を守るために食料自給率の向上に努めるはずが、アメリカのいいなりになって農産物の輸入を増やし、農林水産業を存亡の危機に追いやっている。そこにつけ込んで、経産省お墨付きの再エネ企業が地方をターゲットに乗り込み、金もうけのためにやりたい放題をやっている。生活が脅かされるのは地方に住む人々である。

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