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2015年10月30日

近江の民衆文学・愛護若

<牛頭天王と蘇民将来・その7>



 説経節。中世から散所の民・声聞師(ショウモジ)の唱導文学として語り継がれる。近世には傀儡(クグツ) 、操り人形と提携し、被差別民の担う大衆芸能の一つとなる。それ故に、虐げられた民衆の解放への願いが込められている。折口信夫はこの説教節の中にわが国の文学の原型となる「貴種流離譚(キシュリュウリタン)」を見出した。そんな説教節の一つが京・近江を舞台にした「愛護若(アイゴノワカ)」 。

<愛護若>
 嵯峨天皇の御代、左大臣清平という人がいた。清平夫妻は子供に恵まれず、奈良の長谷観音に詣って祈願する。観音は、一子は授けるが、三つになった年、父母のどちらかが死ななければならぬと言う。北の方は玉の様な愛護若を生む。誓約の三年は過ぎ、愛護若はすでに十三歳。父母は神仏にも偽りがあると慢心を持った。これが観音に聞こえ、母は命を失う。
 清平は、雲井ノ前を後添いとした。愛護は父の再婚を聞き、持仏堂に籠り母の霊を慰めていた。その姿をすき間見た継母・雲井ノ前は、自分の子とも知らず恋に陥る。一日に七度迄も懸想文を送る。気がついた雲井ノ前。清平に告げられることを恐れ、逆に愛護を陥れる。重宝の鞍・刀を盗み出し、愛護に罪をなすりつけた。怒った清平は、愛護若を桜の木に吊り上げる。愛護は苦しさのあまり、血を吐いて悶える。
 死んで冥途に行った母がそれを知った。鼬(イタチ)に姿を変えてこの世に現れて縄を食いきり、比叡山にいる神の使い・「手白の猿」とともに愛護若を助けた。鼬(イタチ)は母が仮りに姿を現したのだと告げ、比叡山西塔北谷にいる叔父・帥ノ阿闍梨の処へ逃げて行くようにと諭し、姿を消す。
 暗く雨降る夜、愛護は家を抜け出る。四条河原にかかると火の漏れる茅屋がある。細工(賤民)の住処(スミカ)である。愛護の話を聞くと、細工は敬い畏(オソ)れみ、荒菰を敷き、米を賀茂の流れで七度清め献上した。夜が明けて、細工に送られ叡山へ志す。中途まで来ると、細工禁制の禁札。愛護は引きとめるが、「仰せ尤にて候へども、賤しき者にて候へば、只御暇」と言い、引き返した。
 愛護一人で、帥ノ阿闍梨を訪ねた。叔父は、稚児が一人立っていることを伝え聞くと、天狗の所業と思い込んだ。そんな甥はいないと言い放ち、大勢に打擲せしめた。愛護は山を下りようと、三日、山路に迷う。三日目の暮れ方、志賀の峠に達した。そこで疲れ休んでいると、粟津の荘・田畑之介兄弟に出会った。二人は愛護の話を聞くと同情し、柏の葉に「粟」の飯を分け与えた。
 田畑之介と別れた愛護は、穴生(アノウ)の里に出た。垣根になっている桃の実を一つ取ろうとし、その家の老婆に追われる。麻の畑に隠れるが、老婆はそこまで追いかけてきて、愛護を杖で打った。毎日、毎夜、このような苦しさと悲しみが続いた。絶望した愛護若は、ついに「霧降(キリュウ)の滝」へ身を投げ、十五歳の人生を終えた。
 山法師が滝のほとりにかかっている小袖を見つけた。小袖の紋で、愛宕若なる事がわかった。二条へ使いが行く。父・叔父などが集まって調べが始まった。雲井ノ前は簀巻にして川に沈められた。かの滝に来て見ると、浮んで居た骸が沈んで見えない。祈りをあげると、大蛇が愛護の死骸を背に乗せて現れた。清平が池に入ると、阿闍梨も、弟子共も、皆続いて身を投げる。穴生の老婆も後悔して、身を投げた。細工夫婦は、唐崎の松を愛護の形見とし、そこから湖水に入った。この時死んだ者、上下百八人とある。大僧正が聞き及び、愛護を山王権現として祀った。


  


2015年10月28日

古代丹後王国


 丹後王国論。歴史学者・門脇禎二が提唱。古墳時代に丹後地方を中心に栄え、ヤマト王権や吉備国などと並ぶ独自の権力を持っていた。4世紀から5世紀が最盛期で、6世紀中頃にヤマト王権の支配下に入ったと推定されている。丹後地方には網野銚子山古墳・神明山古墳・蛭子山古墳などの大型古墳が集中。丹後はまさに古墳の宝庫といえる。丹後半島全体の古墳の数は約6000基ある。
 大陸や朝鮮半島、北九州や日本海地域との交流などを窺わせる豊富な副葬品が出土。特に鉄とガラスは、他地域に抜きん出た先進性を持つ。最古の製鉄コンビナート遺跡である弥栄町の遠所遺跡。最古の玉造り工房跡である同じく弥栄町の奈具岡遺跡。確かに「王国」の存在を十分に窺わせるものである。
 「コロンブスの新大陸発見」などという怪しげな言葉を疑うことこそ歴史学習の出発点。いまだに「日本は単一民族国家」などと平気で嘯(ウソブ)く人たちがいる。ヤマト中心史観を相対化し、想像力を巡らせば、歴史の面白さが広がっていく。歴史学者・林屋辰三郎の言葉、「歴史学とは民衆史であり、それは『地域史』『女性史』『被差別民史』である」。もっともっと勉強しなくちゃ・・・
  


Posted by biwap at 06:12歴史の部屋

2015年10月26日

おとぎばなしを聞きたいの


 不器用に何かに向き合おうとした若者たちがいた。それは、自分を傷つけたくないやさしさとは別のもの。壁にぶつかった時、そこから始まるものがあるのを知ったのは、ずっと後のこと。私たちの世代の、私たちの時代の歌。

  https://youtu.be/Bbzr5TW0krw
  


Posted by biwap at 06:13

2015年10月24日

亡國に至るを知らざれば


 「亡國に至るを知らざれば之れ即ち亡國の儀に付質問」「民を殺すは國家を殺すなり。法を蔑(ナイガシロ)にするは國家を蔑にするなり。皆自ら國を毀(コボ)つなり。財用を濫(ミダ)り民を殺し法を亂して而して亡びざる國なし。之を奈何。右質問に及候也」。足尾銅山鉱毒事件を告発した田中正造の日本憲政史上に残る大演説(1900.2.27.)。
 2015年、戦争放棄を放棄、強引な原発推進、沖縄差別の基地建設。そして、この国の姿が変わろうとしている。亡国に至るを知らざれば、これすなわち「亡国」なり。以下、LIERAXより引用。

 「『これでは農業総自由化と同じではないか』。環太平洋連携協定(TPP)の詳細な合意内容が明らかになるにつれて、生産現場には驚きと衝撃が走っている。あまりに広範囲に及ぶ関税撤廃や大幅な削減に伴い、日本農業がかつて経験したことのない危機的状況に陥りかねない」と憤りをあらわにするのは、日本農業新聞だ。批判の矢は、TPPの大筋合意に喜ぶ安倍首相にも向けられている。
 「安倍晋三首相のあまりに楽観視した発言に、生産現場で落胆が広がっている実態を重視すべきだ。大筋合意後の会見で重要5品目に関連して『関税撤廃の例外をしっかり確保できた』と強調したが、農業者は全く納得していない。生産現場から国会決議の“約束違反”の批判が出るのは当然ではないか。TPPはまさに『国のかたち』を変えかねない協定である」
  「首相は9日の全閣僚で構成するTPP総合対策本部初会合で『守る農業から攻めの農業に転換し、意欲ある生産者が安心して再生産に取り組める、若い人が夢を持てるものにしていく』と述べた。(略)先行き不安から新規投資ができず、中堅層ほど農業に見切りをつけた離農が増えかねない。首相が語る『夢』は『悪夢』に変わりかねない」 <中略>
 「アメリカをはじめとする輸出国は食の競争力があるから食の輸出国になっているのではなく、国をあげての食料戦略と手厚い農業保護のおかげである。例えば、それが端的にわかるのがコメである。アメリカのコメ生産費は、労賃の安いタイやベトナムよりもかなり高くなっている。だから、競争力からすれば、アメリカはコメの輸入国になるはずである」
 『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』(鈴木宣弘/文藝春秋)によれば、米国には、輸出販売を促進するために、より安い価格で販売することが必要だと判断し、安い販売価格と農家に必要な価格水準(目標価格)との差額を不足払いする制度や安く販売した場合の返済免除の仕組み、常に一定額の補助金として上乗せして支払われる固定支払いがあり、「安く売っても増産していけるだけの所得補填があるし、いくら増産しても、海外に向けて安く販売していく『はけ口』が確保されている。まさに、『攻撃的な保護』(略)である。この仕組みは、コメだけでなく、小麦、トウモロコシ、大豆、綿花などにも使われている。これが、アメリカの食料戦略なのである」。
 これは、明らかに実質的な輸出補助金だ。
 「このような実質的な輸出補助金額は、アメリカでは多い年では、コメ、トウモロコシ、小麦の3品目だけでも合計で約4000億円に達している」。このほかの輸出信用や食料補助の仕組みと合わせれば「約1兆円の実質的輸出補助金を使っている」というのだ。輸出補助についてはWTOルールで撤廃するよう命令しなければならない。2013年には一部は廃止されたが、いまだにその多くは維持されている。今回のTPPの大筋合意にいたる交渉でも、多くが秘密のベールに包まれているが議論された形跡がない。
 「輸出補助金は、『輸出に特定した』支払いであるから、この場合は、輸出に特定せずに、国内向けにも輸出向けにも支払っているので輸出補助金にならないというのである」(同書より)
 こうした食料戦略はアメリカだけではない。欧州諸国も同様だ。
「農業経営に関する統計に基づいて、農業所得に占める政府からの直接支払い(財政負担)の割合を比較すると、日本は平均15・6%ほどしかないが、フランス、イギリス、スイスなどの欧州諸国では90%以上に達している。アメリカの穀物農家でも、年によって変動するが、平均的には50%前後で、日本とは大きな開きがある」
 「日本の農業は過保護だ」という日本の政治家やメディアはこの点についてはまったくふれない。
 「欧米諸国の自給率・輸出力の高さは、競争力のおかげではなく、手厚い戦略的支援の証ともいえるのである。換言すれば、わが国の自給率の低さは過保護のせいではなく、保護水準の低さの証なのだ」
 「農産物輸出大国といわれるアメリカやオーストラリアが、実はそこまでして、戦略的に食料生産を位置づけ、国内供給を満たすどころかそれ以上を増産し、世界に貢献、あるいは世界をコントロールするための武器として食料生産を支援しているのかということを我々も学ぶ必要があろう」(同書より)
 日本の農家だけは政府のサポートも脆弱なままで、政府の圧倒的な輸出補助を受けた欧米諸国の農産物と戦わなければならないのだ。これでは日本の農家にとっては「悪夢」以外の何モノでもないだろう。
  


Posted by biwap at 06:38辛口政治批評

2015年10月22日

この国で起こっていること


【東京新聞朝刊(2015年10月9日)から】
 東京電力福島第一原発事故後、福島県が県民へ実施した検査を分析した岡山大の津田敏秀教授(環境疫学)らの研究チームが、子どもたちから全国平均より20~50倍の高い頻度で甲状腺がんが見つかっているとする論文をまとめた。
 8日、日本外国特派員協会(東京都千代田区)で記者会見した津田教授は「放射線被ばくの影響」と指摘。一方、県は「放射線との因果関係は考えにくい」としている。
 福島県は2011年3月の原発事故後、同年10月から、事故発生当時18歳以下だった県民全員を対象に、首の甲状腺にしこりなどがないかを調べる検査をしている。避難指示区域などから順番に実施し14年3月までに一巡した。翌月から二巡目が始まっている。津田教授のチームは、14年12月までに集計された結果を分析。
 県内を9つの地域に分けて発生率を出し、国立がん研究センターのデータによる同年代の全国平均推計発生率「100万人に2.3人」と比較した。その結果、対象の8割の約30万人が受診し、110人ががんやがんの疑いと診断された一巡目では、二本松市周辺で50倍、いわき市や郡山市などで約40倍、双葉町など原発立地町を含む地域は30倍などの高率の発生を確認。
 対象人口が少なくがん診断がゼロだった相馬市など北東地域を除き、残りの地域も20倍以上だった。検査結果を検討する県の専門家部会も、当初の予想に反して多く見つかっている状況を認識。「事故前の推計の数十倍」と認め、数年内に発症するはずのがんを先取りして見つける「スクリーニング効果だけでは説明できない」との意見も出たが、本来、検査の必要のない人まで事故のため受診し、過剰にがんが見つかる状況が原因と分析している。県も、福島第一原発事故はチェルノブイリ原発事故より被ばく線量が少なく、同事故でのがんの多発は4年後からだったことなどから「被ばくとの因果関係は考えにくい」としている。
 この見解に、津田教授は会見で「チェルノブイリ事故では3年以内にもがんは多発した。スクリーニング効果や過剰診断の影響はせいぜい数倍で、今回の結果とは一桁違う。放射線の影響以外には考えられない」と指摘。「福島に住み続ける人が不要な被ばくを避けるためにも、正しい詳細な情報を出すべきだ」と訴えている。論文は国際環境疫学会の学会誌電子版に掲載された。

【小出裕章氏インタビュー記事】
<先日発表された健康調査の結果について、小出さんはどう思われますか。>
小出:私自身はこのニュースを聞いてあまり驚きませんでした。非常に巨大な事故が福島第一原子力発電所で起きたわけですし、大量の放射性物質が環境に噴き出されて、子どもたちが生きている場所を汚染してしまったわけです。そうなれば、どんなことが起きても不思議ではないと私は初めから思っていましたし、きちんと調査をすればするだけ、さまざまな病気が確認できるだろうと思ってきました。
 甲状腺がんというのは、チェルノブイリの事故の時もそうでしたが、一番現れやすい病気です。そのため、甲状腺がんがどんどん増えてきたということ自体については、あまり驚きませんでした。むしろ私が驚いたのは、これほど大量に子どもの甲状腺がんが出ているのに、原子力を進めようとしている国あるいは福島県に囲われている学者たちが放射線被曝との因果関係をはじめから否定し、「原子力発電所の事故とは関係ない」というような意見を述べていることに大変驚きました。
<通常、甲状腺がんは30万人中1人ぐらいだとか、100万人中3人だとか言われています。38万人中105人も出たら、これはどう考えても因果関係あるとしか思えないのですが。>
小出:私自身は、恐らくそうだろうと思います。百歩譲ってそうでない場合があるとしても、それはきちんと確かめるまでは因果関係がないなんてことを言ってしまってはいけません。少なくともこれまでは、子どもの甲状腺がんというのは30万人に1人、あるいは100万人に2、3人とか言われてきたわけで、たった38万人を調べて130人のがんが出てくるということは、やはり、これまでの常識から考えると異常に高いのです。まずは因果関係をきちんと調べるということが大事だと思います。調べた上でものを言うというのが学問のはずなのですけれども、国の方の専門家はそうではなくて、まずは「関係ありません」というところから始まってしまうのですね。
<彼らはどういう根拠で因果関係がないと断定したのでしょうか。>
小出:彼らの言い分としては、これまでは甲状腺がんというのは積極的に調べなかったから、100万人に1人、あるいは10万人に1人とかその程度しか見つからなかったけれども、今回の福島の場合には、とにかく徹底的に調べようとしてしらみつぶしに調べてきた。だから、今までは見つからなかったような甲状腺がんも、今は見つかっているのだというのです。そう言うのであれば、今までは少なくとも徹底的に調査をしたことがないと彼ら自身が認めているわけですから、まずは徹底的な調査をするということが科学的な態度にならなければいけないと思います。
<甲状腺がんは放射性ヨウ素を吸い込むことによってかかる確率が非常に高まるということです。半減期は8日ですね。>
小出:そうです。
<次に甲状腺がんを引き起こすセシウム137というものは、半減期が30年。福島第一原発事故で放出されたセシウムはまだ残っているわけですよね。>
小出:そうです。大地そのものに汚染が残っているのです。
<それにもかかわらず、政府は2017年3月までに、双葉町の駅前等を含め、避難指示を解除すると言っています。これについてどうお考えですか。>
小出:当然、大変危険なことだと思います。1年間に1ミリシーベルトを超えて人工的な被曝をさせてはいけないという法律があったのです。しかし、現在、日本政府は、1年間に20ミリシーベルトまでの被曝なら我慢しろと、その程度の所には、もう住民に帰れと、どっちにしろ補償は打ち切ると言っているのです。1年間に20ミリシーベルトというのは、私のような放射線を取り扱って給料をもらっているという非常に特殊な大人に対して、初めて認められた被曝の基準なのであって、そんなものを一般の人たちに許す、特に子どもたちに許すなんてことは、到底やってはいけないことだと私は思います。
<1ミリシーベルトどころか20ミリシーベルトを超えるような場所の避難指示を解除するというのは、まさに住民を危険な所に戻すということですよね。>
小出:そうですね。私は、今年の3月末まで京都大学原子炉実験所という非常に特殊な職場で働いてきました。時には、放射能を取り扱う場所に入ります。それは、放射線管理区域というのですが、普通の方は入れない、私のような特殊な人間だけが入れる場所です。その場所であっても、1時間あたり20マイクロシーベルトを超えるような場所は、高線量区域として立ち入りが制限されるというような場所なのです。でも、双葉町とかそういう所に行けば、もっともっと汚染の高い所があるわけで、私のような人間すら近寄れないというような汚染が残っているのです。そんな所に人々を帰すなんてことは、決してやってはいけません。
<ちなみに、セシウムというのは筋肉に溜まるようですが、例えば心臓の筋肉にもし入り込めば、心臓発作ということも考えられるということでしょうか。>
小出:当然です。被曝というのは、どんなことでも引き起こしうると私は思っています。広島、長崎といった原爆被爆者の方々をもうかれこれ70年近く調査してきたのですが、当初は白血病が増えるということが分かりました。次に、様々ながんが増えるということが分かりました。今度は循環器系、いわゆる心臓まわりの病気などが多くなっているということがわかってきているという段階なのです。恐らく、セシウムで全身が被曝をするというようなことになれば、様々な形でまた病気が出てくるのだろうと思います。
<この事故で故郷を失い、早く帰りたいと願っている人は当然多いと思うのですが、科学的にしっかりと安全が確認されてからでないと、避難指示を解除すべきではないですよね。>
小出:そうです。住民の方々は、当然、自分の故郷に帰りたいと思っていると思います。そして、恐怖を抱いたままでは生活ができませんから、何としても汚染のことを忘れたいと、どうしても思ってしまうわけです。そういう時には、むしろきちんとした科学的な根拠に基づいて、住民に伝えなければいけないはずなのですが、今の政府は逆に、「もう忘れてしまえ」「安全だ」という方向でやってきているわけです。大変困った政府だと私は思います。

  


Posted by biwap at 06:20辛口政治批評

2015年10月20日

お葬式の民俗学


 参列者は例外なく、葬儀場に安置されている死者の柩(ヒツギ)や写真を拝む。しかし、仏教では死者の肉体に意味はない。僧侶が拝むのは、死体ではなく法(ダルマ)なのである。お経を読むとはそういうこと。数珠をどう持つか、焼香を何回するかなど全く意味のないことだ。ところで、柩に手を合わせることは、もともと仏教ではなく儒教のマナーである。
 儒教では、人間を精神と肉体とに分ける。精神の主宰者が「魂(コン)」。肉体の主宰者が「魄(ハク)」である。魂魄が一致している時が「生きている」状態、分離している時が死の状態である。理論的には、分離していた魂と魄は再び一致する可能性を持つ。従って、遺体は大切な存在。土葬、墓、お骨が重視されるわけだ。なお、死を「穢れ」ととらえるのは「神道」独特のもの。「喪中」とは死者を出した近親者が忌み籠もっている状態。特に死後間もない時はもっと厳格で「忌中」と言う。
 いわゆる「仏教」では、肉体の死と共に霊魂は浮遊するとされる。肉体は抜け殻に過ぎない。従って、荼毘に付す(火葬)。肉体の死と共に、霊魂は「中陰」という時間に入る。その長さ49日。この間、次に生まれる場所が定まる。そこで死者が少しでも良い所に行けるようにと「供養」する。初七日に始まり7日ごとに行われ、49日後に生まれ変わり先が決定。これを「満中陰」と言う。
 中陰法要(忌明け)の後にも、100日目に「百ヶ日」の法要。そして、「一周忌」、「三回忌」と続く。儒教祭祀の影響で付加されたものだ。この間、供養が続く。数えてみると、「初七日」から7日ごと、「七七日(四十九日)」までで7回。「百ヶ日」で8回目。「一周忌」で9回目、「三回忌」で合計10回。これは、冥界の十人の王に審判を受ける回数だ。閻魔(エンマ)さんだけでなく、「十王」もいると大変だ。その審判ごとに、遺族は「追善供養」を行い、少しでも審判を有利にしてもらうのだ。まあ早い話が、坊さんのお布施稼ぎとも言える。
 これで終わりかと思いきや、日本独自にどんどん付加されていった。三と七を重視した七回忌・十七回忌・・・。十二支が1巡する「十三回忌」、2巡する「二十五回忌」・・・。二十三回忌・二十七回忌・三十三回忌・三十七回忌・四十三回忌・四十七回忌・五十回忌。以後50年ごとに百回忌、百五十回忌…と続く。もうエエ加減にしなさい。特に、三回忌・七回忌・十三回忌・三十三回忌が重視。三十三回忌で一応キリになる。「弔い上げ」と称し、死者の霊が「ご先祖様」という神様(祖霊)に仲間入りする。
 ただし浄土真宗の教えでは、死者はすぐに浄土に直行する。従って、「追善供養」などは必要ない。霊という怪しげなものを否定しているところは、なかなか高度な宗教性だ。法要も、仏法や故人にふれる機縁という意味を持つらしい。
 宗教は「内心の自由」に関わる大切な問題。信じるのも自由、信じないのも自由。他者によって強要されるものではないし、ましてや国家によって管理されることなどあってはならない。ただ、自分が自分の心の主人公となるためには、「知る」ことが大切だ。

  


Posted by biwap at 06:25民俗と文化への興味

2015年10月18日

川面の紅葉

道草百人一首・その62
「山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり」(春道列樹)【32番】


 この歌の舞台は、京都東山銀閣寺の北から比叡山と如意ヶ嶽を抜け、近江国の大津へ達する「志賀越道」という山道である。山の中の小川に風が掛けた柵(シガラミ)。あれは何かとよく見てみると、流れようとしても流れ切れない紅葉の集まりだった。春道列樹(ハルミチノツラキ)。文章生(大学寮で文章を学ぶ学生)あがりで官吏登用試験に合格し、叙位任官される。壱岐守に任じられたが、着任する前にむなしく死去。歴史の闇の中に消えていった数多(アマタ)の人たち。いつしか集まった「風のかけたるしがらみ」。いつの間にか、その鮮やかな紅葉の色を川面に映し出していた。  


Posted by biwap at 06:34道草百人一首

2015年10月16日

もう一つの道


 時代の流れが静かにもう一つの道へと動き始めている。以下、ネット記事より。

<英国の野党、労働党の党首選で、反戦、反緊縮、移民保護を掲げるジェレミー・コービン議員が6割近い票を獲得して圧勝し、内外に衝撃が走りました。英国のマスコミはパニックに陥り、これで政権獲得の芽はなくなった、「労働党の自殺行為」だ、などと一斉に酷評しました。一方、コービン議員とは40年来のつきあいだという政治評論家タリク・アリは、コービン党首の誕生で「労働党が変わり、英国の政治も変わる」と大喜びです。日本でも反原発、反安保の抗議運動が政治運動に変わろうとしている今、タリク・アリの分析は必見です。
 労働党はトニー・ブレアやゴードン・ブラウンが党首の時代に、従来の左派路線を中道寄りに修正して中産階級の支持獲得を狙いました。「ニューレイバー」の誕生はマスコミにもてはやされ、ブレアは1997年の選挙に圧勝し、保守党から政権を奪還しました。でも彼の政策は、サッチャー政権以来の市場原理主義の継承にほかなりませんでした。ブレア党首の圧倒的な人気の影で、タリク・アリによれば、党内の反対派の声は圧殺され、党指導部に従順な落下傘候補ばかりが当選し、国会議員にめぼしい人材がいなくなってしまったのだそうです。
 労働党が反戦、反緊縮を唱え、保守党の政策と真っ向から対立するようになれば、ようやく英国に本物の野党が誕生し、有権者に政策の選択肢が与えられます。若者の政治離れは英国でも大きな問題ですが、彼らが無関心なのは誰に投票しても何も変わらないという事実を見抜いているからです。でも、泡沫候補と見られていたコービンに、まさかの地すべり的勝利をもたらしたのは、彼の主張に共感して熱烈な声援を送った若者たちでした。振り付けどおりに動くだけの信念のない議員ではなく、本当に自分たちの声を代弁してくれる政治家が見つかれば、彼らは本気で動くのです。長年の国民不在の選挙にがまんできなくなった人々が、自分たちの運動で政治家を動かし始めたようです。
 どの政党が選挙で勝っても基本の政策はみな同じで、戦争の遂行、緊縮政策の推進、巨大企業を助け、富裕層におもねることばかりです。国民の大多数の利益に反するこのような政策を推進する政党を「中道派」と呼び、それに反対する政策を「強硬」とか「過激」とか呼ぶこと自体がイメージ操作ですが、それに気づいた人々は本物の「選択肢」を自分たちで作り出そうとしています。
 同じようなことが、ギリシャでも、スペインでも、アイルランドでも、スコットランドでも、そして今イングランドでも起きました。成功も、失敗もありますが、日本にもいずれ、そのときがくるでしょう。>
  


Posted by biwap at 06:15辛口政治批評

2015年10月14日

畑の野菜・生姜



 古来、薬用・香料・保存料として貴重だったスパイス。一方、新鮮な海の幸や山の幸を入手できた日本では、素材本来の持ち味を活かす調理法が主流をなし、スパイスは発達しなかった。そんな中、アクセントして使われてきた和風スパイス「生姜」。
 熱帯アジアが原産という説が有力だが不確定。インドでは紀元前には保存食や医薬品として使われていた。日本では、奈良時代には栽培が始まっていたようだ。中世ヨーロッパではショウガの需要がコショウに匹敵するほど高まった。14世紀イギリスでの相場は、ショウガ1ポンド(約450グラム)でヒツジ一匹のお値段。
 ショウガは地下に根茎があり、地上には葉だけが出る。葉はまっすぐに立った茎から葉を出しているようだが、この茎は偽茎。葉の葉柄が折り重なるように巻いたもの。開花することは少ないため、根茎による栄養繁殖が主である。収穫のタイミングで様々な利用法がある。
 その効用は広く知られ、生姜なしに漢方は成立しないと言われる。医薬用漢方薬約150種類の内、実に75%に生姜が含まれるそうだ。冷えの改善、免疫力を高める、抗酸化作用、抗菌・殺菌作用・鎮痛作用・血管拡張・腸の運動促進など。皮は捨てずに、ショウガ風呂に。ただし、ダイエット効果があるかどうかは定かではない。
  


Posted by biwap at 08:41畑の野菜たち

2015年10月12日

誰のためのTPP


 「TPPは労働者や消費者を犠牲にして巨大な多国籍企業の利益を守る、ひどい貿易協定だ」。米大統領選、民主党候補者指名争いで急速に支持を伸ばしているバーニー・サンダース上院議員の言葉だ。何を言っているのか、マス・メディアに洗脳された人間にはさっぱり見当がつかない。そこでネットで見つけた元農林水産大臣・山田正彦氏のインタビュー記事を抜粋引用する。

山田  TPPは「農業と経済の問題」のように思い込まされているけれど、実はそうではありません。TPPは、生活を大きく変えてしまう協定なんです。私はずっとそのことを訴えてきましたが、危機感がなかなか伝わっていないと感じています。
編集部  「生活を変えてしまう」とは、どういうことなんでしょうか?
山田  この協定が結ばれれば、日本の国会で決める法律よりも協定が優位に立ちます。実際に、2012年に発効した米韓FTAによって、これまでに63もの韓国の法律が変えられてしまいました。
 なぜなら、米韓FTAにも、TPPと同じくISD条項というものがあるからです。これによって、TPP協定に反する立法により海外投資家や企業が 「損をした」とみなされれば、国家を訴えることができます。実際に、カナダ、メキシコ、アメリカで締結されたNAFTA(北米自由貿易協定)以降、この ISD条項による企業からの訴訟が増加しています。
編集部  ISD条項による訴訟には、どんなものがあるのですか?
山田  有名な話では、カナダ政府が人体に有害な神経性物質MMTを石油製品に混ぜることを禁止したところ、MMTを製品に混入していたアメリカの石油会社が 「利益を損ねた」としてカナダ政府を訴えて、政府が最終的に1000万ドルの和解金を払ったというものがあります。メキシコでも、アメリカの廃棄物処理会社に、地下水が汚染されるとして埋め立てを禁止したところ、政府が訴えられて1670万ドルの和解金の支払いを命じられています。
 審理は非公開で控訴もできないうえに、強制力があります。そして、これまでに米国政府は敗訴したことがないと言われています。偶然なのかもしれませんが…。そんな条項を日本は本当に受け入れていいのでしょうか。
編集部  海外投資家の利益に反するかどうかが、国内法よりも重要になるということですね。
山田  そうです。米韓FTAでも、韓国の「エコカー減税」の実施が、CO2排出量の多いアメリカ車の販売に支障となるために延期させられています。韓国では、 地方自治体で学校給食に地産地消の食材を取り入れようという動きがありますが、これもアメリカなどの食品会社の参入を阻むものとしてISD条項で訴えられる可能性があるといわれています。
 安全な暮らしを守るために「水や食品の安全基準を大事にしよう」、「食品添加物をやめよう」と国内で決めたとしても、それが企業の利益に反するものだと認められたら、弁償しないといけません。「これを決めたら訴えられるのでは…」という心配から、国も自治体も身動きができなくなりかねないでしょう。そうなれば、司法主権、立法主権、行政主権が奪われてしまうのと同じこと。つまり、間接収用ができるということです。このことの深刻さが伝わっていません。
編集部  TPPによって、添加物や遺伝子組み換えの表示義務など、食品の安全基準が下がってしまうのではという懸念もありますね。
山田  アメリカの議会では、いま「アメリカの農産物が日本で売れないのは国産表示があるからだ」という議論があるそうです。もし本当に、国産表示や遺伝子組み換え食品表示などがなくなれば、どうやって子どもたちに安全・安心なものを選んで食べさせることができるのでしょうか。TPPでは21項目24分野と、幅広い内容が交渉されています。食の安全だけじゃなくて、労働、金融、医療、教育、インターネットの著作権、薬の特許など、身近な暮らしにかかわることすべてが変わってしまう恐れがあるんです。
 そしてTPPのいちばん大きな問題に、秘密協定ということがあります。締結後も4年間の秘密保持義務があり、交渉内容は明かされません。国民には内容を知らせないまま、批准後にTPPの内容にあわせて法律も変えていくことになるんです。
 米韓FTA締結当初、韓国のコメだけは例外として自由化からは守られたといわれていました。最低限の決められた量だけ輸入する代わりに、輸入の自由化を防いだのです。しかし、実際には、今年から韓国でもコメは関税化されました。これで、他国からの輸入が可能になったのです。いまは高い関税をかけているけれど、もしかしたら20年で関税撤廃という約束なのかもしれない。秘密協定だから、どうなっているのか分からないのです。つまり将来にわたってどういう被害を受けるのかが、国民にも、国会議員にもまったく知らされない。こうしたTPPの秘密交渉は、憲法21条で保障されている「知る権利」の侵害にあたるはずです。
編集部  知るほどに不安が大きくなるTPPですが、そんなに不平等な協定に日本が参加することに、メリットがあるのでしょうか?
山田  財界や多国籍企業はやりたがっていますよ。あなたが大企業に勤めているなら、もしかしたら多少のメリットはあるのかもしれません。けれど、ほとんどの国民にとってはデメリットのほうが大きいでしょう。
 アメリカではNAFTA締結前、自由貿易で輸出が伸びて雇用が増えるといわれていました。しかし実際には、倒産したメキシコ人農民が安い労働力として 入ってきて、20年間で500万人が失業し、4000もの工場がメキシコに移転していきました。アメリカのNPO団体「パブリック・シチズン」のメン バー、ローリー・ワラック氏によれば、アメリカの給与水準は下がり続け、43年前の水準にまでなっているといいます。深刻な格差社会になっています。日本でもTPPをやれば労働者の移動が自由になり、アメリカや欧米が抱えるような問題が生まれていくでしょう。
編集部  アメリカの国民はTPPをどう受け止めているのでしょうか。
山田  アメリカでは国民の8割近くがTPPに反対しています。ニュージーランドでも400万人の国民のうち、1万4千人がTPP反対運動をやっているんです。 でも、人口1億人の日本では、なぜか反対運動が盛り上がっていません。メディアが抑え込まれていて報道しないというのもあるし、秘密交渉で、国民は何が行なわれているのかわからないというのもあるでしょう。
 アメリカ政府は、日本に「米韓FTA以上」のものを求めるとはっきりと言っていますが、じゃあその韓国はいまどうなっているでしょうか。いま、韓国では若者が就職できず、格差は開き、医療費もこの3年間で倍近くにあがってきたと言われています。そして、農業者の7割が廃業を決意しています。多国籍企業や外国投資家のような1%のために、残りの99%が犠牲になる。それが新自由主義、グローバリゼーションなんです。
 僕はそれに反対しています。教育、医療、食糧とか水とか空気とか、そうしたものは社会的共通資本として守らなければならないものです。そこに市場原理主義をいれてはダメなんです。
編集部  TPP妥結にむけて、実はすでにさまざまな法整備が進んでいるといわれていますね。
山田  そう。TPPの妥結にかかわらず、実は日米二国間の並行協議で、法整備は着々と進められています。僕は五島列島の出身だけど、離島には電車やバスがあまりないでしょう? だから、みんな家に何台も軽自動車をもっているんです。でも、最初にTPP交渉が始まったとき、日本はアメリカから、軽自動車の製造をやめろと言われたんですよ。そうじゃないとアメリカ車が売れないからね。日本政府は、なんとか軽自動車の税金を普通車並みにすることで、アメリカと折り合ったのです。それでまず、軽自動車の税金が今年から1.5倍になったという訳です。そうやって政府は準備をどんどん進めていっているのです。
 いま、日本では非正規雇用が労働者の約4割にまで達しています。TPPの並行協議ではこうした派遣労働がさらに強化されるでしょう。こうした動きのしわ 寄せを受けるのは若年層です。いま政府は、国家戦略特区での混合診療の解禁、残業代が支払われない高度プロフェッショナル労働制などをやろうとしています。これはTPPで交渉されている内容そのものなんだと思います。
 昨年から、アメリカ企業のアメリカンファミリー生命保険(アフラック)が日本郵政と業務提携して窓口でがん保険の販売を開始しました。さらに、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険のグループ3社の株式が今秋にも上場するという計画も発表されています。もし外資がそうした株をもつようなことになれば、百数兆円といわれる郵便貯金が投資資金となって、リーマンショックのときのように紙くずになってしまうのではないでしょうか。何でもアメリカの言いなりになっています。すでにTPP実現へ向けて、かなり進み始めているんです。
編集部  「TPPで強い農業をつくり、競争力をつけるべき」と言う人も少なくありません。
山田  メディアがそう言っているからね。でも実際には、農業はつぶされますよ。農水省だって、TPPに参加した場合、日本の食料自給率は現行の39%(カロリーベース)から27%程度に低下すると試算しています。政権は農業所得が倍増するといっているけれど、海外をみればそうなっていないことがわかるはず。 アルゼンチン、ブラジル、インドでは、「収量が増えるから」と多国籍企業が特許をもつ遺伝子組み換え種子が広まりました。その結果、種や農薬を購入し続けるための借金に苦しんでいます。
編集部  日本の農業はどんな姿を目指したらいいと考えていますか?
山田  日本は、ヨーロッパ型の家族農業でいくべきだと僕は思います。かつてはアメリカだって、日本と同じように生産調整をしていたんですよ。ニクソン政権時代にバッツ農務長官が、「食糧はミサイルと同じく武器なんだ」と、補助金で増産させて各国に輸出し始めたんです。補助金つきのアメリカの食糧が入ってきては勝てないから、当然、各国は関税を高くするでしょう? そしたら、「関税を下げろ!」と。それが、アメリカのFTAやTPP交渉なんです。
 いまやアメリカは企業型農業で、働く人のことはまったく考えられていません。しかし、フランスの農家収入の8割は所得保障なんですよ。たとえばスイスで、ハイジの世界みたいに斜面でやっているような農業だけでは食べていけないでしょう?アメリカの機械化農業とは規模が違うからです。でも、スイス政府は、標高3千メートル以上のところで酪農や農業をやる人に所得保障を出して農家を保護しています。なぜかといえば、それは、環境保全のためであり、領土保全のためでもあり、食の安全を守るためであり、国を守る食糧自給率の維持のためだからです。
 私が農林水産大臣をしていたときは、農家への直接支払いで所得保障を行ないました。そうなれば若い人が農家に戻るようになります。家族と離れて都会に出て安い給料で暮らさなくても、故郷に残って生活をしていけるという設計をしたんです。いまの自民党はこれに反対だけれどね。 狙われているのは、農協の預貯金90兆円
編集部  JA全中(全国農業協同組合中央会)の改革もTPP反対運動を抑える意図があったのでしょうか。
山田  TPP阻止運動をつぶすだけでなく、郵政民営化のときのように、農協の金融と共済と営農の3分割が狙われています。農協改革はJA全中の監査権限撤廃で決着だとメディアはいっていますが、そんな問題ではない。農協には、日本の都市銀行2位となる預貯金90兆円があるんです。営農など利益のでないところは見捨てられて、利益のあるところは外資が口をあけて待っている。
 韓国でもそうだったんです。私が訪韓した3年前は、まさに農協の三分割が協議されている最中でした。米韓FTAの前は、農民が10万人、20万人とすごい抵抗運動を行なって、死者まで出ています。僕は日本でも農協が危ないと訴えていたけれど、運動は広まりませんでした。いずれ生活協同組合法にも手をかけてくるかもしれません。協同組合みたいな考え方はないんですよ。全部株式会社化なんです。
 韓国の農業はいま非常に厳しい状況です。農協も7兆ウォンの赤字を出していて、政府から補助金の代わりに株式会社化を迫られていると言われています。要するにアメリカの言いなりになっているんです。日本もそう。これじゃ、改憲なんかしなくても憲法が無意味なものになってしまう。とても独立した国とは思えない。
編集部  4年間の秘密保持期間が過ぎて、TPPの内容が明らかになったときに、私たちが「NO」という手段はないのですか?
山田  ありません。というのは、もし変えるなら、残り11カ国すべてが承認しないといけないんです。政権が変わっても同じこと。TPPは国として決めるものだから。でも、そんな馬鹿なことがあっていいはずがない。

【まとめ】1%のために、残りの99%が犠牲になるしくみ
 民主党政権時代、前原誠司元外相は、「(GDP)1.5%を守るために98.5%を犠牲にして良いのか?」と発言したことがある。この発言以降、マスコミは「農業保護が国益を損なっている」「TPPに参加しなければ二流国家に凋落する」という言説をふりまいていった。これに真っ向から反対したのがここに登場する山田正彦元農林水産大臣。
 本質はもっと根の深い所にある。世界の様々な動きとも連動している。それを読み解くことは簡単なことではない。しかし、事の本質は意外とシンプルなところに現れることがある。例えば、食料自給率をこれ以上低下させることが、本当に国民のためなのかを考えれば、すぐにわかるはずだ。大切なことは、面倒くさくても自分の頭で考え続けること。
  


Posted by biwap at 06:16辛口政治批評