2023年09月15日
処理水という名の汚染水
自らの責任で生じた汚染水を海へ捨ててしまう。いくら何でもやってはいけないことだ。でも、そんな批判をしようものなら、中国の肩を持つつもりか、風評被害を煽って地元の人たちを傷つけるのかと、訳のわからん言葉が浴びせられる。
少なくとも、以下のことだけは確認しておいた方がよさそうだ。
海洋放出される処理水にはトリチウム以外は含まれていないので安全だ。また、トリチウムは海外の原発や国内の原発からも海洋放出しているので安全だ。
間違いの第一。流れてくる水は通常運転の原発からのものとは全く違うということだ。福島第1原発の敷地内のタンクに溜まり続けているのは、全電源を喪失し溶け落ちた核燃料を冷却し続けている汚染水だ。また、流入した地下水が核燃料デブリに触れて汚染水となっている。
通常の原発では、燃料棒は被膜管に覆われており、冷却水が直接核燃料に触れることはない。だが、福島第1原発では、溶け落ちて固まったむき出しの核燃料デブリに直接触れることで放射能汚染水が発生している。その汚染度は通常の原発排水どころではない。2018年にはALPSで処理したにもかかわらずセシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素131などトリチウム以外の放射性核種が検出限界値をこえて発見されている。
これは汚染水以外の何物でもなく、処理水と呼ぶのはれっきとした詐欺行為である。
間違いの第二。トリチウムは本当に何の害もない安全なものなのか。
「トリチウムは自然界にも存在し、全国の原発で40年以上排出されているが健康への影響は確認されていない」という。だが実際に、世界各地の原発や核処理施設の周辺地域では、事故が起きなくても稼働させるだけで周辺住民や子どもたちを中心に健康被害が報告されている。その原因の一つとしてトリチウムもあげられている。
トリチウムは水素の同位体で、三重水素とも呼ばれ、化学的性質は普通の水素と同一だが、β線を放出する放射性物質だ。人の体重の約61%は水が占めている。トリチウムは水とほとんど変わらない分子構造をしているため、人体はトリチウムを水と区別できず容易に体内の組織にとり込みやすい。トリチウムを体内にとり込むと、体内では主要な化合物であるタンパク質、糖、脂肪などの有機物にも結合し、有機結合型トリチウムとなり、トリチウム水とは異なる影響を人体に与える。
トリチウムが染色体異常を起こすことや、母乳を通じて子どもに残留することが動物実験で報告されている。動物実験では、トリチウムの被曝にあった動物の子孫の卵巣に腫瘍が発生する確率が5倍増加し、精巣萎縮や卵巣の縮みなどの生殖器の異常が観察されている。
実はこの内部被曝の問題は、原子力推進側にとって積年のタブーであった。内部被曝による人体への影響はアメリカのマンハッタン計画以来、軍事機密とされ隠ぺいされ続けてきたのである。
政府の有識者会議は、トリチウムの生体への影響としてマウスやラットで発がん性や催奇形性が確認されたデータの存在を認めながら、ヒトに対する疫学的データが存在しないことを理由に、トリチウムが人体に影響を及ぼすことを裏付けるエビデンスはないと主張している。都合の悪い時はいつもこの理屈を使う。
しかし実際にはトリチウムの人体への影響はこれまでもくり返し指摘されてきた。ドイツでは1992年と98年の二度、原発周辺のがんと白血病の増加を調査した。その結果原発周辺5㎞以内の5歳以下の子どもに明らかに影響があり、白血病の相対危険度が5㎞以遠に比べて2・19、ほかの固形がん発病の相対危険度は1・61と報告された。
カナダでは、重水炉というトリチウムを多く出すタイプの原子炉が稼働後、しばらくして住民のあいだで健康被害の増加が問題にされた。調査の結果、原発周辺都市では小児白血病や新生児死亡率が増加し、ダウン症候群が80%も増加した。またイギリスのセラフィールド再処理工場周辺地域の子どもたちの小児白血病増加に関して、サダンプト大学の教授は原因核種としてトリチウムとプルトニウムの関与を報告している。
日本国内でもトリチウム放出量が多い加圧水型原発周辺で、白血病やがんでの死亡率が高いとの調査結果も出ている。
トリチウムは通常の原発からも海洋放出しているから安全と言っているが、実際に被害報告や危険性が指摘されている以上、人体にとって危険なトリチウムを排出する通常の原発稼働も止めるべきなのである。通常の原発から出ているのだから安全だなどと間抜けな言葉に騙される方も騙される方だ。
トリチウムは宇宙線と大気の反応により自然界にもごく微量で存在し、雨水やその他の天然水の中にも入っていた。しかし、それが急増したのは戦後の核実験や原発稼働によってだ。さらにそれに輪をかけて、桁違いのトリチウムを無制限に放出し続けて、安全ですなどと涼しい顔をしていられる神経がわからない。
「処理水の取り扱いに関する小委員会」では処分方法として最終的に5つの方法を提示した。その処分方法別の費用は34億~3976億円の幅があったが、結局もっとも安い費用で済む海洋放出(費用34億円)に決定した。科学的な安全性より「安さ」を選択したのだ。そして、全世界に対し償うことのできない無責任と傲慢な大犯罪を演じている。
異常なことを異常なことと気づかない位この世の中は異常なのか。無知ほど怖いものはない。最後の一瞬まであきらめるな!騙されるな!自分の頭で考え続けよ!
Posted by biwap at 21:11
│辛口政治批評