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2022年09月27日

Amazonに労組を!

Amazonに労組を!

 あり余った資金が国民生活に還元されず、株式市場でのバクチや不動産に流れ、住宅価格や物価が高騰する。真面目に働く労働者でさえアパートにも入れず路上で暮らしている。医療保険がないため医者にもかかれず、薬代や医療費破産が過去最高に達し、インフルエンザですら毎年数万人が死亡する。学生はローン返済で首が回らない。「自由の国」アメリカの「新自由主義」の姿だ。
 コロナ・パンデミックの中、新自由主義がもたらした犯罪性が明らかになり、若者や労働者たちが自分自身の力で行動を起こし新しい高揚をつくり出している。

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 年間売上高1584億㌦(22兆6000億円)を達成し、「世界小売業ランキング2021」で2位となったアマゾン。現在、米国で50万人以上を雇用するモンスター企業。創業者ジェフ・ベゾスは米国でもっとも裕福な3人のうちの1人だといわれる。
 新型コロナが猛威を振るった2020年春以降、アマゾンの利用者は急増。企業が記録的な利益をあげる一方で、従業員は劣悪な状態で酷使されている。破滅的な作業ペース、懲罰的な監視、高い労働災害率。
 物流倉庫JFK8では毎日約5000人が働いている。その多くが黒人やヒスパニックである。JFK8では人手不足となり、毎日大量の労働者が採用され、同時に多くの者がやめていった。
 とくに企業の感染対策はきわめて不十分で、感染者や濃厚接触者となれば自宅待機となって給料は支払われない。エッセンシャルワーカーと持ち上げながら、労働実態は低賃金の使い捨てであることに、労働者の怒りは爆発した。
 しかし、有給休暇や健康管理の改善、危険手当の支給などを企業に要求するために労働組合をつくろうとすると、壁が立ちはだかる。米連邦法の規定では、労働組合をつくるにはその職場の全従業員の30%以上の署名を得た上で、全国労働関係委員会に組合結成選挙の申請を行わなければならない。その後、全従業員による選挙をおこなって過半数を獲得してはじめて労組結成となる。
 JFK8の場合、5000人の30%は1500人だ。それを20~30代の若者たちが、既存の大産別労組の支援をまったく受けないで、自分たち自身の力で一人一人に訴えてやりとげた。

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  アマゾン初の労組結成を祝う労働者たち(4月13日)


 ニューヨーク市スタテン島にある物流倉庫「JFK8」で4月、アマゾン初の労働組合「アマゾン労働組合(ALU)」が結成されたというニュースは世界に衝撃を与えた。労組の代表は33歳、アフリカ系アメリカ人のクリス・スモールズだ。「あのアマゾンでできたのだから、どこでもできるはずだ」と、全米の労働者を勇気づけた。
 組合結成に対してアマゾンは、25件以上の異議を申し立てており、全国労働関係委員会がアマゾン労組の側に偏っていると非難している。しかし4月の勝利以来、アマゾン労組(組合員約8000人)には全国の100のアマゾン施設の労働者から「組合を結成したい」との声が寄せられている。

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  スターバックスの組合つぶしに抗議するデモ(4月23日)

 同様の動きになっているのが、米コーヒーチェーン最大手のスターバックスだ。スターバックスでの労組結成の波は、2021年12月、ニューヨーク州バッファローの店舗で始まった。そこでの従業員投票では、19対8で勝利。同社初の労組が誕生、そこから「スターバックス・ワーカーズ・ユナイテッド」への大結集が始まった。労組発足の中心を担ったのは24歳の女性だ。
 それから8カ月経った2022年8月末には、新しい組合は全米225店舗で組合選挙に勝利。6000人以上が新規に加盟した。その多くが高校生や大学生、大学卒業したての若者だ。そしてこれらの店舗の3分の1がストライキに突入し、さらに数百の店舗が組合結成を準備しているという。
 スターバックスの従業員が問題にしているのは、パンデミックで客や従業員のなかで感染者が急増し、身の危険を感じて保護シールドなどを求めているのに、企業側が安全対策としてなにもしなかったこと、対応しきれないほど多くの客が来ているのに、人員が十分確保されていなかったことなどだ。「エッセンシャルワーカー」といわれながら消耗品にされている現実に皆が怒り、そこから組合結成に動いたという。
 一方、CEO(最高経営責任者)のハワード・シュルツは大規模な反組合キャンペーンを開始。組合を結成した数十の店舗を閉鎖し、全国80人以上の組合指導者を解雇した。また、監視や脅迫を行い、さらには「全国労働関係委員会が組合と共謀して詐欺を行っている」といって訴訟まで起こす有様。労働法違反を含むなりふり構わない「労組つぶし」を仕掛けている。組合つぶしのために、CIAのエージェントを雇ったことも暴露されている。
 これに対して各地のスターバックス労組は、組合活動家の解雇、人員不足、労働時間(シフト)の削減、企業による組合支持者のスパイ行為などに対して抗議するストライキをおこなって反撃している。
 スターバックスは、テネシー州メンフィスのポプラ・アンド・ハイランド店で、今年2月、組合組織委員会の7人全員(黒人とヒスパニック)を報復解雇した。これはもっとも悪質な人種差別的組合つぶしだとして、地域住民の憤激を呼び起こした。それから半年後の8月、連邦判事は7人の復職を命じ、企業は彼らを再雇用した。

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  スターバックス本社前で抗議する従業員たち(2月15日)

 こうした運動の担い手は、プロの労働組合活動家とは無縁の、労働運動の経験がほとんどない、有名な大学などに通う高学歴の若者たちだ。彼らが義憤と賢さを発揮して、大規模な組合攻撃を跳ね返し、その経験を「Zoom」などを使ったオンライン会議で全米の店舗に広げることで同僚に手を差し伸べ、それが労組の急増につながっている。
 これに対して企業側は組合つぶしのプロを雇って各店舗に派遣し、従業員たちを拘束して組合から脱退するよう説得しているが、若者たちはそのマニュアルを分析して撃退法を編み出し、それを各店舗で共有しており、組合つぶしの側が彼らに言い負かされてすごすごと帰って行くのだという。今では組合つぶしが来るのを楽しみに待つまでに若者たちが労働運動の組織者として成長しているのだという。
 この中で、SDGsやブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命を守る)運動、セクシャル・マイノリティの権利に賛同する「リベラル」な姿勢を売りにしてきた「スターバックス」のインチキを暴き出している。

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  ストライキを決行した医療労働者(9月12日)

 こうした動きの中心を担っているのが、20~30代の若者たちだ。2008年のリーマン・ショック以降、不安定雇用が拡大して低賃金や失業に苦しむ者が増え、大学の学費は高騰して奨学金のローン地獄に陥る若者が増大するなど、行き詰まる資本主義の矛盾が若者に集中してあらわれた。現在、アメリカの18歳から29歳の若者の過半数が資本主義に反対しており、33%が社会主義に肯定的だという調査結果も出ている。
 1980年代にレーガン政権が「新自由主義」に舵を切って以降、「小さな政府」を掲げた民営化や規制緩和による私的利益追求の結果、経済格差は拡大し大多数の貧困化が進んだ。しかしアメリカの労働運動は、新自由主義に対して抵抗力を失い、譲歩に次ぐ譲歩を重ねてきた。現在、アメリカの労働組合組織率は、全労働者のわずか10%程度にとどまっている。労働組合は弁護士とスタッフが年金管理などをおこなう管理会社のようになっており、労組幹部は高い給料を懐に入れていると揶揄されている。
 一方、新自由主義に対する抵抗運動は徐々に表面化し力をつけてきた。そうした蓄積のうえに、昨年の世論調査では「労働運動を支持する」と答えた人は米国民の68%と、1965年以来最高になった。成績優秀な大学生のなかでも、世界的IT企業で活躍したいという以前の志向は影を潜め、労働運動にかかわる仕事に人生を捧げたいと考える人が増えているそうだ。
 今年6月にシカゴで開催された「レイバーノーツ(労働運動のなかに本物を取り戻そう)」大会には約4000人が参加した。1979年設立当時は数十人から数百人規模だった。しかも参加者の中身も、従来の組合専従活動家から一変し、多くが現場の労働者であり、スターバックスやアマゾンから10代、20代、30代の労働者がたくさん参加したという。
 アメリカの政党である「アメリカ民主社会主義者(DSA) 」は、かつて党員が5000人程度、それも60~70代が多かったのが、今では20~30代が中心になり、党員も10万人をこえたといわれる。「民主社会主義者」の大会では、大会決議はなく、党員はみな平等で自由な立場で参加し、支部をつくるのも党員に任されている。ただ、重要問題については盛んに論議をして一致を勝ちとり、そのなかからすぐれた活動家が次々に生まれている。
 そこで掲げられている社会主義とは新自由主義反対であり、私益にもとづいた経済政策、疎外された労働、富と権力の不平等、人種・性別・性的志向などあらゆる差別を拒絶し、資源や生産手段の一元的管理、公平な再分配などを主張している。また、政策として国民皆保険、最低賃金の引き上げ、大学の学費の無償化などを掲げ、支持を広げている。
 アメリカ労働運動の新たな高揚は、新自由主義に対する歴史的な反撃であり、そこに「新しい社会」への志向を見てとることができる。
 中江兆民は言った
 「自由は取るべき物なり、もらうべき品にあらず」



Posted by biwap at 11:11 │辛口政治批評