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2016年11月09日

王朝の終焉

道草百人一首・その100
「風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける」(従二位家隆)【98番】

王朝の終焉

 風がそよそよと吹いて楢(ナラ)の木の葉を揺らしている。この楢の小川の夕暮れは、すっかり秋の気配となっているが、六月祓(ミナヅキバラエ)のみそぎの行事だけが夏であることの証なのだった。
 楢の小川は上賀茂神社を流れる御手洗川のこと。参拝者が手を洗い身についた穢れを払い落す場所。陰暦六月晦日(ミソカ)に年前半の穢れを落とす「六月祓」の行事が行われる。明日からは暦の上では秋。「みそぎ」の行事だけは、夏であることの証しなのだ。しかし「夏の証し」は別の歴史的意味を持ってくる。
 藤原家隆は後鳥羽院時代の代表的な歌人。寂蓮法師の家に婿として入り藤原俊成に歌を学ぶ。
 鎌倉に武家政権成立。王朝の匂いが辛うじて残っているのは京の都。しかし、その主・後鳥羽院は鎌倉打倒に失敗し絶海の遠島に流される。都に残されたのは祭祀権のみ。宮廷歌人・家隆は、上賀茂境内のみそぎに王朝の終焉を見た。藤原定家が「百人一首」に込めた意味も、そこに垣間見えてくる。



Posted by biwap at 06:24 │道草百人一首