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2016年04月29日

仮想現実

道草百人一首・その74
「あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな」(謙徳公)【45番】

仮想現実

 「私のことを哀れだと言ってくれそうな人は誰も思いつかないで、きっと私はむなしく死んでいくのだ」。謙徳公(ケントクコウ)はおくり名。生前の名前は藤原伊尹(フジワラノコレタダ)。娘は冷泉天皇の女御となり、花山天皇の母となる。おかげで、摂政・太政大臣にまで昇進。一条に邸宅があったので「一条摂政」と呼ばれた。才色兼備の貴公子。時の権力者にこの嘆き節はしっくりこない。
 ねんごろにしていた女性がいつしか冷たくなり、全く自分を顧みようとしなくなった。現実の女性に宛てたのか、それとも虚構の人物を設定してつくったのか。そのどちらであるともいえる。歌を通じた貴族社会の恋愛遊戯。半ば現実、半ば虚構の世界。私たちの人生も、かくの如しか。



Posted by biwap at 09:26 │道草百人一首