2016年10月21日
「土人発言」の深淵

10月18日、午前11時半。沖縄県東村高江。米軍ヘリパッド建設への抗議行動をしていた芥川賞作家・目取真俊さんが、機動隊員4人に押さえつけられる場面。この2時間前、目取真さんら市民数人は、ゲートそばでフェンス越しに工事用トラックの台数を確認していた。機動隊員3人がフェンスから離れるよう指示した際、1人が「触るなくそ。どこつかんどんじゃボケ。土人が」と発言。沖縄タイムスは、「驚きを禁じ得ない暴言だ」と社説(2016年10月20日)を掲載。
<米軍北部訓練場のヘリパッド建設現場に通じるゲート付近で、フェンスを挟んで工事に抗議していた市民らに、大阪府警の機動隊員が「土人」などと暴言を吐いた。
沖縄県民への差別意識が露骨に出た言葉である。県民を愚弄するもので、許せない。
大阪府警の20代の機動隊員は18日午前、フェンスを揺らすなどして抗議していた市民らに「触るなくそ。どこつかんどんじゃボケ。土人が」と発言した。
その直前にも、大阪府警の別の20代機動隊員が「黙れ、こら、シナ人」と差別的発言を浴びせた。
まるで暴力団か、街頭でヘイトスピーチを繰り返す団体のような耳を疑う発言である。
「土人」も「シナ人」も明らかな差別用語である。そういう言葉が公務中の機動隊の口から平然と飛び出すこと自体が異常だ。
県警は「差別用語で不適切な発言だった」などと謝罪したが、当然である。だが、それで済むわけではない。
2人の機動隊員は事実関係を認め、「不適切と承知している」、「右翼関係者につられて思わず言ってしまった」などと県警の事情聴取に 答えているようだが、本当にそうなのだろうか。
6都府県から派遣された約500人の機動隊員のうち、たまたまこの2人が暴言を吐いたのだろうか。
機動隊の派遣を要請した金城棟啓県公安委員長にも説明を求めたい。
翁長雄志知事は急きょ会見し、「言語道断で到底許されない」と強い憤りを表明した。20日に池田克史県警本部長に抗議する。
翁長知事が那覇市長だった2013年1月、沖縄の全市町村長らがオスプレイ配備反対を安倍晋三首相に訴えるため「建白書」を携えて上京。東京・銀座をデモ行進した際のことが思い出される。
沿道からは「非国民」「売国奴」などの罵声が上がり、「中国のスパイ」「日本から出て行け」などの暴言が飛び交った。
底流には沖縄を見下し、「植民地」扱いする意識がいまだにあると考えざるを得ない。だが、これだけではない。基地問題をきっかけに出てきた沖縄バッシングの空気が渦巻いている背景もある。
ネット空間の影響を受けたかのように、機動隊員が「土人」や「シナ人」など日常生活では使わない差別用語を吐くことが「嫌沖」の根の深さを示している。
民意を無視してヘリパッド建設を強行する安倍政権と、市民を強制排除するなど権力をむき出しにする機動隊は一体である。
「不偏不党且つ公平中正を旨とする」と警察法はうたうが、工事車両に表示番号がないなど違反が相次いでも機動隊は警備している。抗議する市民からは多くの負傷者が出ており、対応が公平でないのは歴然としている。
安倍首相は今回の暴言を国会で謝罪するとともに、応援機動隊を引き揚げさせ、工事をやめるべきだ。>
松井一郎大阪府知事、「ネットでの映像を見ましたが、表現が不適切だとしても、大阪府警の警官が一生懸命命令に従い職務を遂行していたのがわかりました。出張ご苦労様」とネットに投稿。おぞましいスタンディングオベーションを思いだした。
9月30日の衆院予算委員会。「我が国の領土、領海、領空は、断固として守り抜く。強い決意を持って守り抜くことを、お誓い申し上げます。現場では夜を徹して、そして、いまこの瞬間も海上保安庁、警察、自衛隊の諸君が任務に当たっています。極度の緊張感に耐えながら強い責任感と誇りをもって任務を全うする。その彼らに対し、いまこの場所から、心からの敬意を表そうではありませんか」。安倍首相がそう言い終わるや否や、自民党議員たちがゾロゾロと立ち上り、壇上で拍手を始めた安倍首相とともに、10秒近く盛大な拍手を始めた。懸命に生きているのは、この人たちだけではない。国家への忠誠を賛美する全体主義国家のおぞましい映像だった。
何が問題なのかを問わない謝罪や処分は、隠蔽でしかない。かの百田尚樹が「沖縄の二つの新聞は潰してしまえ」と叫んだ、そのもう一つの新聞に何が問題なのか解説してもらおう。
琉球新報社説(2016年10月20日)警察「土人」発言「構造的差別」責任は政府に。
<米軍北部訓練場内のヘリパッド建設で基地のフェンス越しに建設反対を訴える市民に対し、大阪府警の機動隊員が「土人」の暴言を発した。県警は事実を認め、「発言は遺憾」と表明した。
「土人」発言は、反対運動の市民だけでなく、県民の心を深く傷つけた。警察への信頼も大きく失墜させた。機動隊員の監督責任者は県民に対し明確に謝罪し、発言した隊員を警察法や侮辱罪などの法令に基づき厳正に処罰すべきだ。
現場の機動隊員は全国から招集されている。隊員の差別発言は、監督者の責任も問われる。隊員に対し、沖縄の基地問題や建設に反対する民情を理解させ、公正中立の立場で職務を行わせる指導、監督をおろそかにした責任は大きい。
フェンスを挟んで向き合う市民への「土人」の暴言は、行動を抑制するのでなく挑発そのものだ。工事を邪魔する者は排除すればいいという、安倍政権、沖縄防衛局の意思を反映したものだろう。
訓練場内のフェンスの鉄線を切断したとされる沖縄平和運動センターの山城博治議長は、防衛局職員の通報で逮捕された。反対運動を萎縮させたい防衛局の意を酌む「狙い撃ち」と批判されている。
反対行動を抑圧する警察活動の、事実上の指揮者は防衛局、政府である。大規模な機動隊投入、不当な車両検閲、市民や新聞記者の排除、自衛隊ヘリの投入と、ヘリパッド建設のため政府はあらゆる手段を取っている。
建設を至上命題とする政府の意を受け、あるいは指揮の下に、警察法が規定する「公平中正」を逸脱する警察活動が行われているのは明白だ。
沖縄差別は歴史的な問題だ。琉球処分、大戦時には沖縄を本土防衛の防波堤にし、戦後は米軍占領を許し、米軍基地を集中させた。
政府の沖縄に対する歴史に根差した「構造的差別」の延長線上に、辺野古新基地建設、ヘリパッド建設がある。
県知事選、名護市長選、県議選ほか幾たびの国政選挙で県民は基地反対の民意を示してきた。民意を踏みにじり基地建設を強行する国家政策そのものが「構造的差別」と言わざるを得ない。
沖縄は日本の植民地ではない。沖縄差別、今回の「土人発言」の責任は政府の差別政策にある。沖縄に対する構造的差別を改めぬ限り、不毛な対立は終わらない。>
松井大阪府知事、「国民すべてが1人の警察官をたたきまくると本当に落ち込む。だから一生懸命やっていたことは認めようということだ」。翁長沖縄県知事、「不適切な発言と認めた上で『よく頑張った』ということになると、筋が違う。沖縄県民への配慮が足りない」。沖縄県警、「今回の発言は極めて遺憾。以後そのようなことがないようあらためて指導する」。
問題を把握できていない大阪府知事から、まず指導した方がよろしいのではないか。いや、そんなことを言いだせば・・・


Posted by biwap at 06:17
│辛口政治批評