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2016年10月18日

百年の時を超え

道草百人一首・その95
「見せばやな 雄島のあまの 袖だにも 濡れにぞ濡れし 色は変はらず」(殷富門院大輔)【90番】

百年の時を超え

 百人一首48番「風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けてものを 思ふころかな」の作者・源重之。彼が100年前に詠んだ「松島や 雄島の磯にあさりせし あまの袖こそ かくは濡れしか」の歌を、本歌取りしたのがこの歌。昔の有名な歌の一部を引用したりさまざまにアレンジして新しい歌を作る「本歌取り」は、藤原定家の時代に流行った粋なテクニック。
 「松島の雄島の磯で漁をしている漁師の袖が濡れるのと同じほど、私の袖は哀しみの涙で濡れているのですよ」と男が無情な恋人をなじると、「あなたに見せたいものです。松島にある雄島の漁師の袖でさえ、波をかぶって濡れに濡れても色は変わらないというのに(私は涙を流しすぎて血の涙が出て、涙を拭く袖の色が変わってしまいました)」と激しく切り返す。百年の時を超えた男女の贈答歌。
 殷富門院大輔(インプモンインノタイフ)。藤原信成の娘。後白河天皇の第一皇女(式子内親王の姉)に仕えた。たくさんの歌を詠み、「千首大輔」と言われた。「袖の色が変わる」とは、涙が枯れて血の涙が出るほど激しく泣いたことを暗示。「血涙」は、もともと中国の古典から来た言葉。さすが中国流、ハードな表現だ。