2022年07月11日
全廃すべきは石炭でなく原発

(最新鋭石炭火力発電所)
2011年3月に発生した東日本大震災と東京電力の福島第1 原発事故。電力不足が一気に問題化し、政府は「原発が稼働できないから節電せよ」と煽った。2011年の夏には、東京電力と東北電力管内では石油ショック以来37年ぶりとなる電力使用制限令が発動。企業など大口需要家には対前年比15%の使用電力削減が義務づけられ、他の電力会社の圏内でも自主的な節電のとりくみが要請された。
だが、全国の原発がすべて停止している状態のもとでも大規模な停電は起こらなかった。絶対的な設備容量は足りており、燃料さえ確保できれば原発を動かさなくても電力供給力は確保できたというのが現実だった。

大停電は一度も発生せず節電の要請も必要なかった。福島原発事故から11年が経過した今、なぜ政府や電力会社は「電力不足」に慌てふためいているのか。
電気は貯蔵できず、常に需要にあわせて供給を調整することになるが、ある程度の余裕を持たせておかないと、突発的な事故や災害が起きたときの需要と供給のバランスが保てなくなる。このゆとりの指標が予備率だ。予備率が高いほど電力に余裕があり、予備率が低くなると電力不足が起こる。
電気を安定的に供給するためにも最低でも3%以上の予備率が必要だ。3%台になった時点で黄色信号がともり、3%を下回ると電力危機が見えてくる。さらに気象変動による需要や発電機のトラブル対応のため7~10%の予備率が電力安定供給の目安といわれている。
2022年1~3月の東京エリアの見通しはマイナス2・1~0・8と非常に低い数字が出ており、安定供給にはほど遠い。

今回の「電力不足」の一番の原因は日本の全発電電力量において大きな割合を占めている「火力発電」の減少だといわれている。全国で火力発電所の休廃止があいついでいるからだ。休廃止の理由は、稼働しても「採算があわない」という電力会社側の利益追求の都合だ。
火力発電所は他の発電施設に比べて、施設の維持・運営に金がかかる。電力自由化以降、再エネ電力の増大により、卸電力市場における電力の取引価格は低迷している。そのため発電しても安い値段でしか売れず、採算があわない火力発電事業から手をひく発電事業者が増えている。
火力発電の休廃止が急激に増大した背景には、2016年4月の法改定で「発電所の休廃止」が「許可制」から「届出制」にかわったことがある。採算がとれないと判断した発電事業者がやめたいと思えば、国の許可がなくても、いつでも簡単に休廃業できるようになったのだ。国は火力発電の休廃止をコントロールできなくなり、電力不足に拍車がかかっている。

一方、政府は2030年度には温室効果ガスの排出量を2013年度と比べて46%削減し、2050年に脱炭素を実現するとの目標を掲げている。だが、太陽光発電や風力発電など再生エネルギーがいくら増えても、いや増えれば増えるほど火力発電の重要性が増してくる。それは太陽光や風力は天候によって発電量が大きく左右されるからだ。電力過多になる「春・秋」に発電した電気を貯めて、電力が不足になりがちな「夏・冬」に使えればいいが、現在の技術では電力を長期間保存することはできない。太陽光ではとくに曇りの日が多い冬場には、発電量がゼロになる日も多く出てくる。
天候次第で発電量の予測ができない再エネの増大に対応して、電力の安定供給のための「調整役」としてバックアップ電源となる火力発電が必要になってくる。電気を安定供給するうえで重要なのが、電力の需要と供給のバランスだ。このバランスが崩れると、電気の周波数が崩れて、電気の供給を正常におこなうことができなくなり、最悪の場合はブラックアウトと呼ぶ大規模停電にも至る。
だが、電力自由化による競争激化のなかで、電力会社は利用率が低く、収益を生まない老朽化した火力を建て替える余裕がなくなり、電力需要が高まったときに供給する設備を保有できなくなってきている。

太陽光発電をはじめとした再エネ設備の導入が増えれば、ピーク対応の火力発電設備の利用率はますます下がって採算はとれなくなり、需要を賄うための設備はさらに減る。電力の安定供給のためには悪天候時に備え、利用率の低い設備も保有する必要があることは明らかだが、電力会社の利益追求の都合から見れば切り捨ての対象となり、再エネが進むなかで電力供給の不安定化は増すことになる。
再エネでどれだけ発電できようが、調整できる電源は必ず必要だ。だが、その設備は調整に回され、恒常的な稼働はできない設備であり、電力自由化のもとでは電力会社側からすると廃止の対象になっていく。
加えて電力不足の要因の一つにLNG(液化天然ガス)の不足があげられている。日本はLNGをほぼ輸入に頼っており、冷却・液化して船舶で運び、タンクで貯蔵する。だが徐々に気化してしまうため長期保存には向かない難点がある。
LNGは世界的に奪い合い状態で、価格高騰や供給不足が顕在化している。日本が輸入するLNG価格も1年間でほぼ2倍になっている。中国が「爆買い」で日本を抜いて世界最大の輸入国になり、ヨーロッパでもLNGが不足し電力価格が暴騰している。日本は新型コロナ禍での輸送の停滞や円安も追いうちをかけ、LNGを十分に確保することができなかった。昨年11月には、LNGの在庫切れのために火力の出力を落とす燃料制約が北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力の4電力で頻発した。

電力の消費量を見ると、産業用も家庭用も減少傾向にある。省エネ推進や人口減少、海外への工場移転などが進み、今後電力需要が増える見通しはない。そのもとでの昨今の「電力不足」は、実際に電力供給能力がないのではなく、「電力自由化」や「再エネ推進」といった政府の政策に根源がある。
電力自由化前は、大手電力会社は必要とされる電源をある程度まで採算度外視で確保することができた。価格よりも安定供給が優先され、発電コストは総括原価方式による電気料金で回収することができた。そのもとで巨額の設備投資を必要とする原発建設もおこなってきた。
電力自由化によって、日本社会における電力の安定供給に責任を負う主体が存在しなくなった。政府がまずその責任を放棄したことが最大の犯罪だ。さらに各電力会社は自社の利益追求を最優先し、採算があうかどうかを唯一の基準に設備投資計画を進め、安定供給にとって必要な火力発電も採算にあわないと判断すれば次々に廃止してきた。そのもとで電力の安定供給体制は崩壊し、大停電がいつ起こっても不思議でない危険な状態に陥っている。
新規に電力市場に参入した新電力にしても、もうからなければ電力の安定供給の責任は放棄してさっさと撤退し、地域住民の電気料金が倍になる事態も発生している。

かつては「電力の安定供給の優等生」といわれた日本が、今や停電大国になる寸前に落ちぶれている。社会に電力を安定供給するという責任を投げ捨て、私企業の目先の利益を最優先する姿勢がもたらしたものだ。
経済産業相はこうした電力需給のひっ迫を口実に、「原子力の最大限活用」を盛り込んだ新たな対策案をまとめるなど、原発再稼働にもっていこうとしている。だが、私的な企業の利益を最優先する姿勢はかわらず、福島原発事故の二の舞いとなる危険性は高い。

この間の経験でも明らかなことは原発なしでも電力供給に支障はなく、再稼働を選択しなくても道はあるということだ。少し考えれば「当たり前」のことを、そうでなく思わされることを「洗脳」という。プロパガンダに惑わされず、自分の頭で考えよう。全廃すべきは、「石炭火力」ではなく「原発」だ!
(最新鋭石炭火力発電)


Posted by biwap at 09:34
│CO2温暖化説への懐疑