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2022年04月07日

白く塗りたる墓

白く塗りたる墓

 「脱炭素」なる不可解な号令の下、推進されるEV車(電気自動車)。でも、バッテリー残量にハラハラしながら、エアコン消して走るのが現状だ。排気ガスも出さないクリーンでエコな「時代の寵児」。だが、その電気はどこから来るのか。電気自動車に置き換わっていけば、電力需給がひっ迫するのは目に見えている。
 EV車の生命線はバッテリーである。そこに用いられるリチウムイオン電池には、コバルト、ニッケル、マンガンなどの鉱物が使われる。
 住友金属鉱山という会社がある。ニッケルをフィリピンで調達し、パナソニックに納め、パナソニックがバッテリーを作り、EV車に搭載する。

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 住友金属鉱山は、フィリピンでニッケルを調達し電気自動車のバッテリーをつくることが自分たちのSDGsの取り組みであり、脱炭素社会実現への貢献だと位置づけている。
 その鉱物を得るために現地リオツバでは何が起きているのか。
 リオツバ村のあるパラワン島は南北に長い島。先住民族パラワンの人たちは、陸稲の籾を山の斜面に植え、育て、小さいハサミで器用に穂を摘んでいく。種蒔きの際には親戚や隣人が集まり助け合うという伝統的な農業が続いている。

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 緑に囲まれた場所に家を構え、薬草を採り、伝統的農業を営む。ブランジャオ山は、そんなパラワンの人たちにとって「神様の住む聖域」である。
 このブランジャオ山の麓で鉱山開発が行われ、日本にニッケルが輸出されてきた。リオツバ・ニッケル鉱山の露天掘り現場では、もうもうとした埃がたちこめる。それまであった森林をすべて伐採し、引きはがし、ニッケルがある地層まで掘り進む。広大な森林が破壊されていく。掘られたニッケル鉱石のうち高品質のものだけが日本などに輸出され、低品質のものは使われないまま放置されてきた。

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 2000年代に入って、この低品質のものを製錬する製錬事業を始めた。鉱石を化学反応させ、ニッケルの純度を高めるわけだが、その過程で大量の廃棄物が出る。それをテーリング(鉱滓)ダムにすべて投げ込む。テーリングダムに沈めた廃棄物は、一定時間をおいてから、上澄み液をパイプラインで海まで運び捨てている。そこは漁村に近く、パイプラインを通す桟橋を作るため、サンゴ礁は破壊された。

白く塗りたる墓

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 製錬所を動かすために石炭火力発電所があるが、それは製錬所のためのもの。パラワン島の先住民族が住む地域には電気が通っていない。
 製錬するため、中和剤として石灰石が必要になる。そのため、近隣の先住民族居住地域から採掘し、持ってくる。以前は木々が生い茂る丘だった場所が、採掘のため、樹木はすべて伐採され、平らな土地に変貌していく。
 そこで生活していた先住民族は移転させられる。その移転地は熱がこもる密集したコンクリートの家。ニッパヤシの屋根や竹を使った家は風通しが良く、現地の気候にあっていた。彼らの生活様式や文化は破壊されていった。

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 2000年代には、製錬事業に反対する声が上がり始める。抗議デモ、裁判闘争。それらは圧殺され、事業はそのまま進んだ。
 製錬所のテスト操業が始まった頃から皮膚病が起きている。こうした公害病は因果関係を科学的に証明するのが難しい。それでも住民たちは、事業の前には皮膚病は起きなかったと証言している。

白く塗りたる墓

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 ニッケル採掘現場と製錬事業地域からの水が流れ込むトグポン川。WHOの基準を大幅にこえる六価クロムが検出された。六価クロムは発がん性があり、皮膚炎や腫瘍の原因になる。
 トグポン川には鉱山からの土砂が堆積している。マングローブに棲息する魚類、貝や蟹に影響が出ている可能性は高い。
 パラワン島のリオツバ鉱山では、ニッケル鉱山の拡張計画が進んでいる。拡張しようとしている区域は「自然保護区域」に指定され、人の手が入らないように保護されている所だ。ところが、事業者と自治体がグルになって「自然保護区域」の指定を解除した。
 今、気候変動対策の一環として電気自動車のバッテリー需要が高まっている。それがニッケル鉱山拡張への追い風となっている。気候変動対策のため、途上国の森林は引き剥がされ、水質汚染が引き起こされている。
 「脱炭素」などという先進国の偽善の為に、途上国はそんな「キレイごと」ではすまない環境破壊に晒されている。「白く塗りたる墓」という言葉を思い出した。
 「偽善な律法学者、パリサイ人たちよ。あなたがたはわざわいである。杯と皿の外側はきよめるが、内側は貪欲と放縦とで満ちている」