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2018年06月22日

「万引き家族」の面白さ

「万引き家族」の面白さ

 是枝裕和監督『万引き家族』。最近見た素晴らしい映画の中でも、秀逸な作品だった。
 第71回カンヌ国際映画祭で最高賞となるパルムドールを受賞。いつもなら日本人の受賞に大騒ぎするはずなのだが。「日本人が国際的な賞を受賞したら必ず賛辞を送るはずの安倍首相が沈黙を保ったまま」とフランス「フィガロ」紙は皮肉る。
 お仲間のネトウヨも一斉に攻撃を開始。「こんな映画絶対に見ない」「日本人は万引きで生計を立てたりしない」「変なイメージを外国に植え付けるな」「『万引き家族』のカンヌ受賞は世界に恥をさらすものだ」「万引き家族みたいな家族が現実に日本にいる、いられるみたいなのが拡散されているようで、とっても嫌だ」

「万引き家族」の面白さ

 是枝監督が『万引き家族』の企画を思いついたのは、まさに日本社会で現実に起きていたことに触発されたから。
 「数年前に、日本では亡くなった親の年金を受け取るために死亡届を出さない詐欺事件が社会的に大きな怒りを買った。はるかに深刻な犯罪も多いのに、人々はなぜこのような軽犯罪にそこまで怒ったのか、深く考えることになった」
 2010年、足立区で111歳とされていた男性が白骨化して発見。実は30年以上前に死亡していた。死亡届を出さずに年金をもらい続けていたとして、家族が詐欺で逮捕。この事件を皮切りに全国で相次いで類似の事件が発覚。“消えた高齢者”として社会問題化。年金詐欺として大きなバッシングを浴びた。
 是枝監督はこの事件をきっかけに、“社会から排斥される存在”として年金と万引きで生計をたてている一家の物語を着想した。『万引き家族』の主人公一家は、決して架空の絵空事ではない。

「万引き家族」の面白さ

 「日本は経済不況で階層間の両極化が進んだ。政府は貧困層を助ける代わりに失敗者として烙印を押し、貧困を個人の責任として処理している。映画の中の家族がその代表的な例だ」
 「日本では今も家族は『血縁』というイメージが固定化されている。特に、2011年大地震以降、このような家族の絆を大げさに強調する雰囲気について疑問を感じていた」
 『万引き家族』には、日本社会に対する違和感、問題意識が凝縮されている。格差の激化、共同体や家族の崩壊、機能しないセーフティネットによる貧困層の増大、疎外される貧困層や弱者、自己責任論による弱者バッシング。失敗者は存在しないものとして無視され、浅薄な“家族愛”ばかりが喧伝される。

「万引き家族」の面白さ

 「対立している人と人、隔てられている世界を映画が繋ぐ力を持つのではないかと希望を感じます」
 重い現実を描きながらも、決して暗くも悲惨でもない。単なる社会派映画でもない。そこには人間への深い眼差しがある。だから映画を見るのが楽しい。楽しくない映画は見たくもない。
 この映画を見終わった後、なぜ面白いのか、何度も反復した。私たちが前提として持っていた思考の枠組みがガラガラと音を立てて崩れていく爽快さ。それに似た解放感が、この映画の魅力なのかもしれない。



Posted by biwap at 17:30 │芸術と人間