2018年05月01日
春を待つ欧州

知っていて騙しているのか、それとも無知なのか。原発安全神話から北朝鮮問題まで、「専門家」と呼ばれる皆さんの世論誘導言説には、ほとほとうんざりだ。
私たちはこの変動していく世界をどう読み解けばよいのか。いつまでもメディアから与えられる情報のみを鵜呑みにし、コメンテータの声を自分の意見と錯覚していてはいけない。しっかりと目を見開いて、自分の頭で考えていこう。
2018年03月10日・朝日新聞朝刊。ブレイディみかこさんの記事から世界の中の「もう一つの流れ」を読み取ってみよう。
<緊縮病「失われた10年」 待ちわびる、冬の終焉
春まだ遠い英国に雪が降った。ホームレス支援の慈善団体に勤めている友人から電話がかかり、食料をカンパしに行った。悪天候のため、友人が働いている団体では、事務所や倉庫を開放してホームレスの人々の緊急シェルターにしている。
「今年は本当に路上生活者が多いから、教会やカフェ、ナイトクラブのオーナーまで自分の店を開放して受け入れを行っている」と友人は言っていた。それでもまだ路上にいる人々のため、パトロール隊が出て、どこに行けばいいか案内して回っているそうだ。若いボランティアがリュックに食料を詰め、ポットにティーを入れて次から次に出ていく姿を見た。雪でカレッジや大学が休講になったので手伝いに来たと言っていた。英国には相互扶助の機動力がある。
こういう話はいま英国中にあり、ニュースで毎日のように報道されている。だが、他方では悲惨な話もある。先月、国会議事堂の最寄り駅である地下鉄のウェストミンスター駅で、路上生活者の遺体が発見された。亡くなったのはポルトガルからの移民だったと判明し、同国のレベロデソウザ大統領はこの事実を「非人道的」と公に批判した。ロンドンでは、年初の6週間だけで4人の路上生活者が亡くなっている。その1人となったポルトガル人男性は35歳の元モデルだった。
2010年に保守党が政権を握って緊縮路線になって以来、路上生活者の数は69%増になった。昨年の総選挙で、メイ首相は22年までにその数を半減させ、27年にはゼロにすると公約した。だが、福祉予算が削られ続け、悪天候の緊急支援すら民間の善意に頼っている状態で、そんなことができるのだろうか。
路上生活者の増加が社会問題になるにつれ、5月にヘンリー王子の挙式が行われるウィンザーでは、路上生活者の取り締まりを強化した。公共スペースに寝具を置く者や物乞い行為に対して100ポンドの罰金を科すと自治体が発表。ロイヤルウェディングで世界中から観光客や取材陣が集まることを想定しての一掃作戦である。これは全国的に物議をかもしたので、さすがに自治体は撤回を余儀なくされたが、ふつうに考えれば、罰金は珍妙な案だ。路上生活者をなくしたいのならシェルターを提供した方が早い。
メイ首相の路上生活者ゼロ宣言に現実味がまったくないのも、ウィンザーの自治体がシェルターに予算を使えないのも、理由は同じ。緊縮で財政支出をカットしているからだ。
国会議事堂の目と鼻の先で路上生活者が死亡したことについて、ポルトガルの大統領が英国の状況を批判したのは皮肉だった。ポルトガルは、緊縮病にかかっていると言われているヨーロッパにあって例外的に大胆な反緊縮の政策を取り、成功している国だからだ。
ユーロ加盟国は、「ギリシャのようになりたくなければ緊縮しなさい」と言われてきた。多くの政治家や知識人が、愚かにも一国の財政を家庭の財布になぞらえ、「倹約して借金を返済しないと破産します」と財政均衡ファーストのマントラを繰り返してきたのである。
ところが、ギリシャ同様に財政危機に陥ってEUから緊急融資を受けたポルトガルは、15年に社会党政権が発足すると、一転して反緊縮に舵を切り、最低賃金引き上げ、逆進性の高い増税案の破棄、公共部門職員賃金と年金支給額の引き上げなどを行った。「まやかしの経済」、「すぐ財政破綻してまた救済が必要になる」と緊縮派は激しく批判した。が、ポルトガル経済は奇跡の復活を見せた。13四半期連続で堅調な経済成長を遂げ、財政赤字も快調に減らしている。内需が拡大しているからだ。16年には、単年度の財政赤字額の比率が国内総生産(GDP)の2%になり、初めてユーロ導入国に課された財政基準を満たした。
つまり、ポルトガルは、「ドイツとEUが提唱する緊縮をしなくとも経済は好転し借金も返せる」ことを体現する存在になっているのだ。これは混迷する欧州に灯った希望の光だ。しかし、同時に腹立たしくもなる。他国はどうなっているのだと思うからだ。
いまだに半数以上の若者が失業し、自殺者が増加したギリシャは? ローンや家賃が払えなくなった人々が続々と住宅退去させられたスペインは? 経済不安から極右が台頭しているフランス、そして路上生活者が増え続けている英国は、いったい何のために緊縮財政を続けているのだろう? 統計上のEU全体の経済は好調でも、各国の問題は深い。
今年1月、ポルトガルの経済復興の立役者であるセンテーノ財務相が、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)の新議長に就任した。この人事を推したのはドイツだったと言われており、メルケル首相は欧州の緊縮体制が機能していないことをようやく認めたとささやかれている。
もしそうだとすれば、欧州の長すぎた冬はついに終わるかもしれない。08年の経済危機で始まり、緊縮が悪化させた「失われた10年」の終焉告げる暖かな春の光を、欧州の地べたは待ちわびている。>
以前のブログ記事から
コービン(英) http://biwap.shiga-saku.net/e1362428.html
サンダース(米) http://biwap.shiga-saku.net/e1242854.html
Posted by biwap at 17:13
│辛口政治批評