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2019年07月01日

「新聞記者」

「新聞記者」

 「これは、新聞記者という職業についての映画ではない。人が、この時代に、保身を超えて持つべき矜持についての映画だ」(是枝裕和)

「新聞記者」

 ある夜、東都新聞社に「医療系大学の新設」に関する極秘公文書が匿名FAXで届いた。表紙に羊の絵が描かれた同文書は内部によるリークなのか? それとも誤報を誘発するための罠か?

「新聞記者」

 書類を託されたのは、日本人の父親と韓国人の母をもち、アメリカで育った女性記者・吉岡エリカ(シム・ウンギョン)。吉岡は真相を突き止めるべく取材を始める。

「新聞記者」

 政権に絡んだきな臭い問題が立てつづけに起こる。その裏側で動いているのが、内閣情報調査室(内調)。政権を守るための情報操作。政権に楯突く者たちを陥れるためのマスコミ工作。

「新聞記者」

 その内調に出向している若き官僚・杉原拓海(松坂桃李)。政権擁護のための情報コントロールという仕事に葛藤する。外務省時代の上司・神崎がビルの屋上から身を投げたことにより、杉原は不信感を募らせていく。神崎の通夜が行われた日、偶然にも言葉を交わした吉岡と杉原。2人の人生が交差した先に、官邸が強引に進めようとする驚愕の計画が浮かび上がる。

「新聞記者」

 劇映画というフィクション作品でありながら、ここ数年のあいだに安倍政権下で起こった数々の事件が重ねられる。森友公文書改ざん問題での近畿財務局職員の自殺、加計学園問題に絡んだ前川喜平・元文科事務次官に仕掛けられた官邸による謀略、“総理ベッタリ記者”による性暴力被害ともみ消しを訴える伊藤詩織さんによる告発。その背後にあるのが官邸の「謀略機関」内閣情報調査室。その暗躍をこの映画は正面から描いている。

「新聞記者」

 衝撃の問題作には違いないのだが、何よりも映画として面白い。権力批判には違いないのだが、人間性への普遍的な問いかけでもある。
 「良心」を貫くのは、決して容易なことではない。家族を愛し守らねばならない杉原(松坂桃李)の葛藤は、誰しもが経験することなのかもしれない。人の心は壊れやすく脆い。だからこそ、人の心を蹂躙していく暴力を私たちは告発し続けなければならない。「新聞記者」のメッセージがそこにある。
 少なくとも声を上げた人たちを見殺しにしてはいけない。映画を見に行こう!



Posted by biwap at 09:50 │芸術と人間