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2017年12月26日

ドナドナの荷馬車を降りよ!

ドナドナの荷馬車を降りよ!

 ギター一本で「ドナドナ」を歌うジョーンバエズ。60年代反戦フォークの旗手も76歳になる。
 「ある晴れた 昼さがり 市場へ 続く道 荷馬車が ゴトゴト 子牛を 乗せてゆく かわいい子牛 売られて行くよ 悲しそうなひとみで 見ているよ  ドナ ドナ ドナ ドナ」
 本来の歌詞は、もっとストレートなものである。
 「縛られた悲しみと 子牛が揺れて行く。 ツバメは大空 スイスイ飛び回る。 風は笑うよ 一日中。 力の限り 笑っているよ。 ダナダナダナダナ ダナダナダナダン
 『泣くな!』 農夫が言った 『お前は子牛か 翼があったなら 逃げて行けるのに!』
 捕らえられむざむざと 殺される子牛 心の翼で 自由を守るんだ!」
 「ドナドナ」の作詞者アーロン・ゼイトリン(Aaron Zeitlin)。ベラルーシ生まれのユダヤ人。1939年9月、ナチス・ドイツによるポーランド侵攻が開始される少し前にニューヨークへ移住。1940年にこの詩を書いた。
 19世紀後半に吹き荒れたポグロム(主にユダヤ人に対する集団的な迫害行為)。ミュージカル『屋根の上のバイオリン弾き』では、主人公がポグロムによって村を追われている。こうした歴史的経緯から、アメリカには多くのユダヤ人が流れ込み、新たな文化が形成された。これが「ドナドナ」を生み出す素地となる。
 ナチス・ドイツによるホロコーストは、「収容所に追い立てられるユダヤ人」の記憶をそこに重ねさせた。しかし歴史の皮肉は「収容所に追い立てられるパレスチナ人」を生み出すことになる。「自由の国」アメリカでは、ベトナム反戦のメッセージとしてプロテストソング「ドナドナ」が歌われた。
 何らかの体制やイデオロギーに普遍的正義があるのではなく、圧政からの解放にこそ普遍的な価値があるのだ。「ドナドナの荷馬車を降りよ!」 朝日新聞12月25日朝刊に面白い記事が出ていたので以下引用。

<私はよく、へんてこりんな服を着用している。片方だけ袖がないとか裾が異様に膨らんでるとか。しかして街を歩けば二度見され、同僚には見て見ぬふりをされ、肉親には「なんだその変な服は!」と指弾される。そんな時、私はとりあえずこう反論する。
 「これ高かったんだよ!」
 ひゃあ。ウソでもそう言えば、手っ取り早く相手を黙らせることができる、そう思っているわけですね。貧しいですね。サイテーですね。
 以上、サンタが街にやってきたジングルベルな日になぜわざわざ生き恥をさらしているかというと、安倍内閣が過日決定した2兆円規模の「新しい経済政策パッケージ」に、私と似たにおいをかぎ取ったからである。くんくん。
 パッケージの両輪は「人づくり革命」と「生産性革命」。いやはや、その名の下に行われる政策の方向性に異論はなくとも、聞くと心がスースーする言葉だ、人づくり革命。
 人間が製造ラインに載せられている感じが、どうしてもする。工場の壁には「この道しかない」「一億総活躍」「国難突破」の標語が掲げられているわけで、首相がそこに「大胆に投資」するというからには、私のような「不良品」はダイタンにハジかれるのであろうなあとおぼろに不安を覚えて―おっと。大杉栄の「鎖工場」がただいま脳内に飛来した。自らを縛るための鎖を造る工場の話だ。
 「もうみんな、十重にも二十重にも、からだ中を鎖に巻きつけていて、はた目からは身動きもできぬように思われるのだが、鎖を造ることとそれをからだに巻きつけることだけには、手足も自由に動くようだ。せっせとやっている」。そしてその脇では、多少風采のいいやつが「鎖はわれわれを保護し、われわれを自由にする神聖なるものである」と言い立て、「みんなは感心したふうで聴いている」。
 2兆円スゲー。タダはうれしい。なのになんか気持ち、アガんなくないですか? 脳内に流れるBGMはなぜか「ドナドナ」。ある晴れた昼下がり、荷馬車がゴトゴトかわいい子牛は売られゆき―。
 さてお立ち会い。私たちは自由か。お金で自由を買われてないか。上からの「革命」は果たして「われわれを保護」し「自由にする」だろうか。
 「おだやかな革命」というドキュメンタリー映画が、来年2月に公開される。地域に根ざし、太陽光や小水力発電などでエネルギーを自治しながら、新しい暮らしの選択肢をつくり出そうとしている人たちの姿が描かれている。
 監督の渡辺智史さん(36)は「震災後、人々の価値観はやはり変わってきている」と語る。私は「本当に?」の言葉をそっとのみ込む。私にはまだ「点」にしか見えない。
 ただ、革命ってそんなもの、事後に初めて「線」として認知できるのかもしれない。
 自分はどう生きたいか。どんな社会に暮らしたいか。個を出発点とするその問いこそが、おだやかな革命。鎖を切る。荷馬車を降りる。選択肢がなければ自らつくる。人はそのようにも生きられる。
 みなさま、よいお年を。(政治断簡)ドナドナと革命、荷馬車はゆれる 編集委員・高橋純子  >