「フードテック投資」という妖怪が徘徊している。金儲けのためなら手段を択ばない例の面々。
2020年、農林水産省は今後の活性化領域としてフードテック官民協議会を立ち上げた。同協議会には約1000人の産官学の組織に所属するメンバーが集まった。
ゲノム編集食品、培養肉、コオロギパウダー入りのお菓子。産業振興面での今後への期待は大きいという。食品メーカー、商社、食品流通事業者、金融機関、ベンチャーキャピタルまでが注視している。
三菱総合研究所の「フードテックの未来展望」を読んでみよう。
<食料のうち、気候変動の観点から負荷が最も大きく、需要拡大が懸念されているのは、牛肉である。牛肉1㎏を作るのに必要とされる飼料要求量(穀物を含む)は25㎏にも及ぶ。大量の水と土地を必要とするのに加え、牛のゲップに含まれるメタンガスがCO2の28倍もの温室効果を有する。これらを合わせると、牛肉1kgの生産により、88kg分のCO2排出と同等の環境負荷があるとされている。
これに対して、より効率の良いたんぱく源として、植物肉、コオロギをはじめとする食用昆虫、培養肉、精密発酵による乳製品などの新しい食品製造(フードテック)が提案され、一部はすでに市場で流通し始めている。果たして、これまで食べてこなかったたんぱく源への移行はスムーズに進むのだろうか。これまでに食経験のない食品については、より丁寧な説明や制度的な後押しが必要になる。
例えば温室効果ガス排出の多さから各たんぱく質を評価すると、最も多い牛に比べて豚は約3分の1、鶏は約5分の1、昆虫食では鶏よりもさらに少量となる。
では、培養肉や、植物肉、魚介類はどうなのか。牛乳に比べ精密発酵乳は生体の飼育を伴わない分、温室効果ガスの排出が少ないとされる。こうした情報が分かることではじめて、価格とおいしさという従来からの指標に加え、気候変動など環境視点からの評価を加味した商品選択が可能となる。>
オランダは九州ほどの小さな国にもかかわらず、多数の家畜を集中させて生産効率を上げる「集約畜産」を採用することで、現在もアメリカに次ぐ世界第2位の農産品輸出額を誇ってきた。その分、家畜の糞尿に含まれるアンモニウムが大気へ排出する量も大きい。牛のげっぷに含まれるメタンガスの温室効果は二酸化炭素の28倍であるという。このため、気候活動家はオランダがEUの中で最大の集約家畜頭数を維持し続けていることを非難した。
2022年6月、オランダ自然・窒素政策相は2030年までに国全体のアンモニアと窒素化合物の排出量を半減させるという目標を打ち出した。そのために、家畜の数を3分の2に減らし、さらに農地を強制的に買い取るという。
農業を基幹産業としているオランダで、何千もの農家が家畜の数や経営規模を大幅縮小しなければならなくなり、政府に協力しなければ完全廃業を余儀なくされる。さすがに、「何か変だよね」となる。
「温暖化による地球滅亡というショックをたてに、畜産を潰し農地を没収するドクトリンを進めているのでは?」
オランダ政府が自国農民を土地から追い出すその裏で、同時に進めていたプロジェクトがある。「スマートシティ」開発計画。
3000万人から4000万人の住民が、水耕栽培や昆虫食などCO2を出さない健康な食事をし、あらゆるデータがネットでつながれ、生活に必要なサービスが最速で受けられる、持続可能な生活スタイルを送るという全く新しい都市計画。メガポリス都市の建設には大量の土地が必要だ。
廃業を恐れる農家や農業団体は大規模なデモを始めた。2022年9月には農業大臣が辞任に追い込まれる事態にまで発展した。農家主導の政党が、上院議員選挙で第1党に躍進した。グローバリズムに対する素朴な反発が背景にある。
農家団体は数多くのトラクターで高速道路を封鎖し、都市部でデモ行進を繰り返した。抗議活動が繰り返される中で生まれたのが「BBB(農家市民運動)」だった。
党首ヴァン・デル・プラス氏。元々は養豚を専門とする農業ジャーナリスト。政治的にアジるというより、人々に分かりやすく話す才能を持っている。母親がアイルランド出身。選挙集会では米国の人気歌手ニール・ダイヤモンドの名曲「スイート・キャロライン」に乗って演説をする。
この曲はアイルランド系のジョン・F・ケネディの長女キャロライン・ケネディに捧げたものと言われ、アイルランドでは人気の曲だ。オランダ国内では、「キャロライン」という名前は非エリート層の出身を思い起こさせるという。
農家や地方の有権者が、グローバリゼーションで恩恵を受ける都会のエリートや富裕層をやり玉に挙げ、政治の場で反旗を翻す風景は、欧米で広がっている。
庶民性を表す「キャロライン」を前面に出したBBB。怒れる農家が主導し田舎代表として存在感を示したオランダの反乱は、多くの国で関心を集めた。
日本では、かつてTPP反対運動で反グローバリゼーションの立場から市民団体を巻き込んだ農協も、自民党政権下で徹底的に牙を抜かれていった。政権与党に刃向かってまで自分たちの要求を突きつける兆候は見られない。
欧州では素朴な農村の怒りは、中道右派政党へと向かっている。日本でも、都市のリベラル左派は「サンデーモーニング」を見ながら、地球温暖化に危機感を募らせている。蜘蛛の巣の張った観念左翼は、もう一度原点から再出発した方がよろしいのではないかと思う。