星を見つめる少年たち

biwap

2020年09月16日 06:35



 長浜市国友町にある「星を見つめる少年」像。
 江戸時代後期、自作の望遠鏡で天体観測を続けた人物がいた。国友一貫斎。
 元々幕府御用達の鉄砲鍛冶だった一貫斎だが、江戸で反射望遠鏡を見るなり自作の望遠鏡を作り上げた。改良を重ねた望遠鏡は当時の世界最高水準の域に達す。月、土星、太陽の黒点などの天体観測を行った。国友村は「日本天文学発祥の地」とも称されるようになる。
 一貫斎の邸宅址前に建てられたのが「星を見つめる少年」像。子どものような好奇心と探究心。一貫斎の心の中には、この「少年」が生き続けていたのだろう。


 福井県小浜市にある杉田玄白像。同じ時代を生きた玄白の心の中にも「少年」がいた。
 江戸屋敷に勤めていた越前小浜藩の医師杉田玄白の所へ同じ藩の医師中川淳庵がやってくる。「オランダ人から預かったのだが」。大事そうに持ってきたのが「ターヘルアナトミア」。


 玄白は何が書いてあるのかわからない。しかし、その解剖図に驚かされる。中国のとは全然違う。欲しくてたまらない。藩の役人に頼み込み、やっと買ってもらう。高価な本だが、でも読めない。
 その頃、江戸で死刑になった罪人の腑分けを見学する機会ができた。さっそく前野良沢を誘って出かける。懐に「ターヘルアナトミア」。ところがなんと前野良沢も同じ物を持っていた。長崎で買ったそうだ。やがて解剖が始まる。「ターヘルアナトミア」の図と同じだ。「自分たちは体の内部を知らずに病気を治そうとしていたのか」。そこで是非この「ターヘルアナトミア」を翻訳してみたいと考えた。


 玄白は全くオランダ語がわからない。良沢は今で言う中1英語くらいの実力。辞書も参考書もない。とにかく議論しながら読み始める。
 鼻の説明のところで「フルヘッヘンド」と言う言葉が出てくる。わからない。別の所で、庭で箒を掃いて枯葉にフルヘッヘンドするとある。1日中何のことかと思案。突如ひらめく。うずたかく盛り上がるという意味では。確かめていくと、間違いない。天にも上るような喜びよう。
 こんな調子で読み進め、4年余りかけてやっと翻訳を完成したのが「解体新書」。「小船で大海に乗り出したようなものだ」

 83歳で息を引き取った玄白は長命の秘訣を語っている。
 昨日の非は恨悔すべからず(昨日の失敗を悔やまないこと)
 明日の是は慮念すべからず(明日のことは過度に心配しないこと)

 「己上手と思わば、はや下手になるの兆(キザシ)としるべし」
 誰にとっても人生は未完でしかない。でも、いつまでも星を追い求めていたいものだ。

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