この国で起こっていること

biwap

2015年10月22日 06:20


【東京新聞朝刊(2015年10月9日)から】
 東京電力福島第一原発事故後、福島県が県民へ実施した検査を分析した岡山大の津田敏秀教授(環境疫学)らの研究チームが、子どもたちから全国平均より20~50倍の高い頻度で甲状腺がんが見つかっているとする論文をまとめた。
 8日、日本外国特派員協会(東京都千代田区)で記者会見した津田教授は「放射線被ばくの影響」と指摘。一方、県は「放射線との因果関係は考えにくい」としている。
 福島県は2011年3月の原発事故後、同年10月から、事故発生当時18歳以下だった県民全員を対象に、首の甲状腺にしこりなどがないかを調べる検査をしている。避難指示区域などから順番に実施し14年3月までに一巡した。翌月から二巡目が始まっている。津田教授のチームは、14年12月までに集計された結果を分析。
 県内を9つの地域に分けて発生率を出し、国立がん研究センターのデータによる同年代の全国平均推計発生率「100万人に2.3人」と比較した。その結果、対象の8割の約30万人が受診し、110人ががんやがんの疑いと診断された一巡目では、二本松市周辺で50倍、いわき市や郡山市などで約40倍、双葉町など原発立地町を含む地域は30倍などの高率の発生を確認。
 対象人口が少なくがん診断がゼロだった相馬市など北東地域を除き、残りの地域も20倍以上だった。検査結果を検討する県の専門家部会も、当初の予想に反して多く見つかっている状況を認識。「事故前の推計の数十倍」と認め、数年内に発症するはずのがんを先取りして見つける「スクリーニング効果だけでは説明できない」との意見も出たが、本来、検査の必要のない人まで事故のため受診し、過剰にがんが見つかる状況が原因と分析している。県も、福島第一原発事故はチェルノブイリ原発事故より被ばく線量が少なく、同事故でのがんの多発は4年後からだったことなどから「被ばくとの因果関係は考えにくい」としている。
 この見解に、津田教授は会見で「チェルノブイリ事故では3年以内にもがんは多発した。スクリーニング効果や過剰診断の影響はせいぜい数倍で、今回の結果とは一桁違う。放射線の影響以外には考えられない」と指摘。「福島に住み続ける人が不要な被ばくを避けるためにも、正しい詳細な情報を出すべきだ」と訴えている。論文は国際環境疫学会の学会誌電子版に掲載された。

【小出裕章氏インタビュー記事】
<先日発表された健康調査の結果について、小出さんはどう思われますか。>
小出:私自身はこのニュースを聞いてあまり驚きませんでした。非常に巨大な事故が福島第一原子力発電所で起きたわけですし、大量の放射性物質が環境に噴き出されて、子どもたちが生きている場所を汚染してしまったわけです。そうなれば、どんなことが起きても不思議ではないと私は初めから思っていましたし、きちんと調査をすればするだけ、さまざまな病気が確認できるだろうと思ってきました。
 甲状腺がんというのは、チェルノブイリの事故の時もそうでしたが、一番現れやすい病気です。そのため、甲状腺がんがどんどん増えてきたということ自体については、あまり驚きませんでした。むしろ私が驚いたのは、これほど大量に子どもの甲状腺がんが出ているのに、原子力を進めようとしている国あるいは福島県に囲われている学者たちが放射線被曝との因果関係をはじめから否定し、「原子力発電所の事故とは関係ない」というような意見を述べていることに大変驚きました。
<通常、甲状腺がんは30万人中1人ぐらいだとか、100万人中3人だとか言われています。38万人中105人も出たら、これはどう考えても因果関係あるとしか思えないのですが。>
小出:私自身は、恐らくそうだろうと思います。百歩譲ってそうでない場合があるとしても、それはきちんと確かめるまでは因果関係がないなんてことを言ってしまってはいけません。少なくともこれまでは、子どもの甲状腺がんというのは30万人に1人、あるいは100万人に2、3人とか言われてきたわけで、たった38万人を調べて130人のがんが出てくるということは、やはり、これまでの常識から考えると異常に高いのです。まずは因果関係をきちんと調べるということが大事だと思います。調べた上でものを言うというのが学問のはずなのですけれども、国の方の専門家はそうではなくて、まずは「関係ありません」というところから始まってしまうのですね。
<彼らはどういう根拠で因果関係がないと断定したのでしょうか。>
小出:彼らの言い分としては、これまでは甲状腺がんというのは積極的に調べなかったから、100万人に1人、あるいは10万人に1人とかその程度しか見つからなかったけれども、今回の福島の場合には、とにかく徹底的に調べようとしてしらみつぶしに調べてきた。だから、今までは見つからなかったような甲状腺がんも、今は見つかっているのだというのです。そう言うのであれば、今までは少なくとも徹底的に調査をしたことがないと彼ら自身が認めているわけですから、まずは徹底的な調査をするということが科学的な態度にならなければいけないと思います。
<甲状腺がんは放射性ヨウ素を吸い込むことによってかかる確率が非常に高まるということです。半減期は8日ですね。>
小出:そうです。
<次に甲状腺がんを引き起こすセシウム137というものは、半減期が30年。福島第一原発事故で放出されたセシウムはまだ残っているわけですよね。>
小出:そうです。大地そのものに汚染が残っているのです。
<それにもかかわらず、政府は2017年3月までに、双葉町の駅前等を含め、避難指示を解除すると言っています。これについてどうお考えですか。>
小出:当然、大変危険なことだと思います。1年間に1ミリシーベルトを超えて人工的な被曝をさせてはいけないという法律があったのです。しかし、現在、日本政府は、1年間に20ミリシーベルトまでの被曝なら我慢しろと、その程度の所には、もう住民に帰れと、どっちにしろ補償は打ち切ると言っているのです。1年間に20ミリシーベルトというのは、私のような放射線を取り扱って給料をもらっているという非常に特殊な大人に対して、初めて認められた被曝の基準なのであって、そんなものを一般の人たちに許す、特に子どもたちに許すなんてことは、到底やってはいけないことだと私は思います。
<1ミリシーベルトどころか20ミリシーベルトを超えるような場所の避難指示を解除するというのは、まさに住民を危険な所に戻すということですよね。>
小出:そうですね。私は、今年の3月末まで京都大学原子炉実験所という非常に特殊な職場で働いてきました。時には、放射能を取り扱う場所に入ります。それは、放射線管理区域というのですが、普通の方は入れない、私のような特殊な人間だけが入れる場所です。その場所であっても、1時間あたり20マイクロシーベルトを超えるような場所は、高線量区域として立ち入りが制限されるというような場所なのです。でも、双葉町とかそういう所に行けば、もっともっと汚染の高い所があるわけで、私のような人間すら近寄れないというような汚染が残っているのです。そんな所に人々を帰すなんてことは、決してやってはいけません。
<ちなみに、セシウムというのは筋肉に溜まるようですが、例えば心臓の筋肉にもし入り込めば、心臓発作ということも考えられるということでしょうか。>
小出:当然です。被曝というのは、どんなことでも引き起こしうると私は思っています。広島、長崎といった原爆被爆者の方々をもうかれこれ70年近く調査してきたのですが、当初は白血病が増えるということが分かりました。次に、様々ながんが増えるということが分かりました。今度は循環器系、いわゆる心臓まわりの病気などが多くなっているということがわかってきているという段階なのです。恐らく、セシウムで全身が被曝をするというようなことになれば、様々な形でまた病気が出てくるのだろうと思います。
<この事故で故郷を失い、早く帰りたいと願っている人は当然多いと思うのですが、科学的にしっかりと安全が確認されてからでないと、避難指示を解除すべきではないですよね。>
小出:そうです。住民の方々は、当然、自分の故郷に帰りたいと思っていると思います。そして、恐怖を抱いたままでは生活ができませんから、何としても汚染のことを忘れたいと、どうしても思ってしまうわけです。そういう時には、むしろきちんとした科学的な根拠に基づいて、住民に伝えなければいけないはずなのですが、今の政府は逆に、「もう忘れてしまえ」「安全だ」という方向でやってきているわけです。大変困った政府だと私は思います。



関連記事