砧を打つ女
道草百人一首・その98
「み吉野の 山の秋風 小夜ふけて ふるさと寒く 衣打つなり」(参議雅経)【94番】
かつて離宮があって栄えていた吉野の里が今は古び、晩秋の夜には里の家で砧(キヌタ)を打つ音だけが聞こえている。砧とは丸太に柄のついたような棒。それで衣を叩き光沢を出す。静かな秋の夜にそれぞれの家からこの音が聞こえてくるのが風物詩。
能の名曲「砧」(世阿弥作)。九州筑前の何某の妻は、訴訟のため京に上った夫の帰りを待ちわび「漢の蘇武(ソブ)の妻が秋の夜寒に、遠く北国で囚われの身になっている夫を恋い慕い、高楼に上り砧を打ったところ、その音が万里離れた夫の許に届いた」という故事にならって、思いのほどを託して砧を打った。
参議雅経(サンギマサツネ)。本名、藤原雅経。後鳥羽院に気に入られ、新古今集の撰者の一人となる。蹴鞠の元祖である飛鳥井(アスカイ)家の先祖である。
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