きりぎりすの哀悼歌

biwap

2016年10月28日 06:16

道草百人一首・その96
「きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む」(後京極摂政前太政大臣)【91番】


 きりぎりすは現在のコオロギのこと。コオロギが鳴いている、こんな霜の降る寒い夜に、むしろの上に衣の片袖を自分で敷いて、独りさびしく寝るのだろうか。
 平安時代、男性と女性が一緒に寝る場合は、お互いの着物の袖を枕代わりに敷いた。「片敷き」は自分の袖しかなく、寂しい独り寝のことを言う。霜が降る本当に寒々とした「わびしさ」が心に伝わってくる。
 後京極摂政前太政大臣。本名、藤原良経(ヨシツネ)。関白藤原兼実(カネザネ)の子供で、摂政・太政大臣まで登りつめた権力者。この歌のわびしさとはそぐわないが、実は妻に先立たれた哀しみを謳ったもの。確かに、コオロギの声が切なくしみ込んできそうである。その良経も、わずか38歳で夭折。


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