三舟(サンシュウ)の才
道草百人一首・その79
「滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ」(大納言公任)【55番】
大納言公任(キントウ)=藤原公任。関白太政大臣頼忠の子供。早くから出世コースを歩むが、同い年に藤原道長がいたため文化人の道へ。その道長、大堰川の豪遊で「漢詩の舟、管弦の舟、和歌の舟」を用意して、それぞれの達人たちを乗せた。どれに乗るかと聞かれた公任。結局、和歌の舟に乗るのだが、実はいずれにも秀でた博学多才の持ち主だった。ここから、「三舟(サンシュウ)の才」の持ち主と呼ばれるようになる。
さて、「滝の音」の歌。嵯峨大覚寺の滝殿で詠んだもの。「滝は枯れて、その音はもう聞こえないけれど、その名声だけは今だに人々の間で語り継がれている」。それは、作者・公任の文学者としての「志」に他ならない。
未完の人生。たとえ「名」を残さずとも、せめて人間としての「矜持」だけは持ち続けていたいものだ。
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