石見神楽の中に「五神(ゴジン)」という演目がある。神代神楽以前のものとされ、芸能というより形而上学的世界観が語られる神楽最大の長編。
国之常立神(クニノトコタチノカミ)の四人の王子「春青大王(シュンゼイダイオウ)・火赤大王(カセキダイオウ)・秋白大王(シュウハクダイオウ)・冬黒大王(トウコクダイオウ)」の所へ、四神逹の弟である第五の王子・埴安大王(ハニヤスダイオウ)の使いと名のるものが現われる。
四人の王子たちは、春夏秋冬の四季、東西南北の四方を占領している。使いは所領をわけて欲しいと交渉するが、四神たちは第五の王子が居ることなど知らないと相手にしない。
そこで埴安大王を連れて来るが、四神たちは「五倫の道、五行の運行、四節の経過、四苦の存在」など長々と論じ、天下はすべて四神の王土であると強調する。
埴安大王は怒り、それぞれ五神とも軍勢を率いて合戦となる。そこへ天の神の使いの老人が登場し、五神たちに神勅を下し国土が平安になる。
同じ話は、備中神楽の演目「五行」にも見られる。
四人の王子が神殿の四隅に着座している。父君・万古大王(バンコダイオウ)が五色の幡(ハタ)を手にして現れる。万古大王は、2万3490余年の間この世を保ち、天地間に万物を創生してきたが、もはや死期が近いことを語る。
そこで、四兄弟とまだ見ぬ五人目の子に、四季・方位・木火土金水を五つに分配すると告げた。
四人の王子の任務分担は、太郎(久久能智)=春・東方・青色・木、二郎(軻句突智)=夏・南方・赤色・火、三郎(金山比古)=秋・西方・白色・金、四郎(水波女)=冬・北方・黒色・水。
五郎王子・埴安彦(ハニヤスヒコ)が黄色(オオシキ)の御幡(ミハタ)を差し立てて登場。太郎をはじめ四人の王子達は、旅王子と称して彼を弟だと認めようとしない。五郎王子と四人の兄達との問答が繰り広げられる。しかしながら、口論から取っ組み合いの大喧嘩になろうとする。
そこに修者賢牢神(シュウジャケンロウジン)が仲裁に分け出でる。五郎王子は正当な弟であると認められ、五人の任務分担が無事完了となる。最後に五郎王子が五行幡を持ち、舞い上げて、五行幡割りが終わる。
この演目の背景にあるのが陰陽五行説。
「青春」「朱夏」「白秋」「玄冬」という言葉がある。上の図のように、「春=青、夏=赤、秋=白、冬=黒」といった色彩が割り当てられている。四季と同様に方位にも同じ対応関係が存在する。方位を守る四神は、「東=青龍、南=朱雀、西=白虎、北=玄武」。真ん中は「黄帝」。
春・夏・秋・冬の四季には、木・火・土・金・水の五行があてられる。春=木、夏=火、秋=金、冬=水。各季節の変わり目には「土」をあてた。これを「土用」と言う。
土用とは季節の変わり目のことで、それぞれ春の土用、夏の土用、秋の土用、冬の土用がある。その期間はおよそ18日間。各季の土用があけると、立夏、立秋、立冬、立春になる。今日では夏の土用だけが用いられている。
土用に鰻を食べる習慣については諸説ある。
平賀源内説。商売がうまく行かない鰻屋が、夏に売れない鰻を何とか売るため源内の元に相談に赴いた。源内は、「本日丑の日」と書いて店先に貼ることを勧めた。すると、その鰻屋は大変繁盛した。その後、他の鰻屋もそれを真似るようになり、土用の丑の日に鰻を食べる風習が定着した。
丑の日と書かれた貼り紙がなぜ効力を奏したのか。丑の日に『う』の字が附く物を食べると夏負けしないという風習があったとされる。鰻以外には瓜、梅干、うどん、うさぎ、馬肉(ウマ)、牛肉(ウシ)などを食する習慣もあったようだ。
蜀山人説。 鰻屋に相談をもちかけられた蜀山人こと大田南畝が、「丑の日に鰻を食べると薬になる」という内容の狂歌をキャッチコピーとして考え出した。
鰻二匹説。毛筆で書いた「うし」と言う文字が、まるで2匹の鰻のように見えた。
クリスマスケーキと同じで、こんな時でないとウナギは食べられない。世の中、「口実」というのも必要なのだ。
陰陽五行説については、当ブログ「陰陽五行が宇宙を走る」を参考に。
https://biwap.shiga-saku.net/e1213896.html