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2016年05月09日

砕け散るこころ

道草百人一首・その75
「風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けてものを 思ふころかな」(源重之)【48番】

砕け散るこころ

 風がとても激しく、海に顔を出した岩に波がぶち当たって砕けている。岩は何も動じないのに、波は何度も岩に当たり、そして粉々に散っていく。ちょうど、振り向いてくれない彼女に想いを寄せて心砕ける私のように。
 源重之(シゲユキ)。清和天皇の曾孫。地方官歴任ののち、陸奥に下りその地で没した。出自と官職の落差。不遇を嘆く歌がたくさん詠まれている。
 「砕けてもの思ふ」は、平安時代に使われた恋の表現。ある種ありきたり。ところが、嵐の海の情景を詠み込んだことで、激情を語る鮮烈なイメージの一首となった。千々に思い悩む男の恋心。いや、それは人生の荒波に打ち砕かれる、自分の姿そのものかもしれない。