挑戦するナイキ

biwap

2020年12月07日 09:22


 11月28日にネットで公開されたCM動画がある。12月4日現在、すでに1千万回以上再生され話題になっている。
 「わたし浮いてる?」「ここにいちゃダメなの?」
 「わたしって、ナニモノ?」「普通じゃないのかな」


 ありのままの自分を受け入れられずに悩む3人の少女。アフリカ系ミックスルーツによる差別を受けている子。いじめられている子。在日コリアンの少女。


 チマチョゴリ姿でうつむきながら街を歩く様子や、学校で「いじめ」にあっているさまが描かれている。最後に、「YAMAMOTO」と書かれたユニホームに「KIM」という文字を加えるといった変化が描かれる。


 動画は、アスリートの実体験に基づいて作られ、差別やいじめを受ける10代のサッカー少女3人がスポーツを通じて自我に目覚めていく様子を描いたものだ。
 「いつか誰もが、ありのままに生きられる世界になるって?でもそんなの待っていられないよ」「動かし続ける。自分を。未来を」と呼びかける。
 商品のPRはなく、スポーツを通じて葛藤を乗り越える姿を描いたメッセージ。「こういう発信があり、それを支持する人が沢山いるだけで勇気が出てくる」などと共感の声が広がっている。
 一方で、「日本人を咎めてそんなに楽しいですか」「日本には人種差別はない」「日本に朝鮮人差別は無い、あったとしても理由があるから」「ナイキは反日企業だ、もう買わない」などという攻撃も炎上している。


 「新疆ウイグル自治区収容施設から移送されたウイグル人の強制労働が強く示唆される」工場の供給先として、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が発表した80あまりの企業リストの中にソニーやアップルなどと並びナイキの名前があったことを指摘する声もあった。
 取ってつけたような屁理屈を含め、その多くがネット右翼による感情的な反発である。あえて言葉を誤用していえば、この動画は嫌韓・反在日コリアンを金科玉条とする彼らの琴線に触れたのだ。
 しかしそんな反発は百も承知の上で、この映像は作られたのではないか。
 ナイキは、テニスの大坂なおみ選手が警察官による黒人への暴力に抗議した際にも、「この勝利はじぶんのため この闘いはみんなのため」とのコピー広告をツイッターに掲載。人種差別問題への抗議として試合前の国歌斉唱で起立しなかったアメフト選手も広告に起用するなど、人種問題を意識した発信をしてきた。
 今回のCMについても、「『日本に差別はない』と憤る人たちに向けた商品は作っていません」と潔い。「メッセージに共感する人に愛してもらうことがブランド価値向上につながる」と判断したのではないか。
 どこからもクレームが出ないようにと厚い忖度の衣を身に纏った業界。「でもそんなの待っていられないよ」と自らCMで風穴を開けた勇気に拍手を送りたい。
 「かっこいい」と画面の中の少女たちに見入る若者も多くいたそうだ。

 https://youtu.be/G02u6sN_sRc